労災病院における脊髄損傷疫学調査

部門のご紹介 医用工学研究室 5.脊損データベースより

コメントもそのまま転載しています。下記より脊髄損傷者のおよそ7割が頸髄損傷者です。頸髄損傷者についての医療現場の現状がうかがい知れると思われます。「全国脊損データベース」は「全国頸損データベース」でもあるでしょう。


「全国脊損データベース」は、受傷後初回のリハ医療を受けて退院した外傷性脊髄損傷者のデータを集約したものです。そのデータは、おおむねこれまでの脊髄損傷の発生の疫学的知見に沿っていますが、あくまで、労災病院を中心としたデータベース参加医療機関におけるリハ治療の結果です。 このデータベースは、特に脊髄損傷のリハ治療のアウトカム(成果)、を明らかにすることで、それらの目的を果たすように運用されています。どのような脊髄損傷者が、どの位の期間のリハ治療で、どのような機能的・社会的アウトカムがえられているのか、その間には合併症がどの程度存在したのかなどを提示します。 データの提供は全国の労災病院(総合せき損センターと吉備高原医療リハビリテーションセンターを含む)と労災病院以外の神奈川リハ病院と高知医療センターが参加し、現在、30の医療機関によって成り立っており、1997~2009年度の間に3,633例のデータが登録されています。これは、この13年間の日本において発生した脊髄損傷者のおおむね3~5%に相当すると推定されます。

  本データベースの集計結果は、学会発表、論文、出版、インターネットでの掲示の形で公表されています。平成13年には、「脊髄損傷のoutcome–日米のデータベースより -」が出版され、平成22年には、「脊髄損傷の治療から社会復帰まで」が出版されました。それ以外にも、これまでに数多くの論文が公表され研究発表がなされています。本データベースの内容理解の一助として、集計結果の一部をグラフ化して下記に示します。また、これまでに発表された文献の一覧をページ末に示しますので、参考にしてください。

労災病院における脊髄損傷疫学調査 (1997年度~2007年度)
全国にある労災病院と関連施設より寄せられた13年度分(退院年度が1997年度から2009年度までの3633件)の脊髄損傷者データをもとに、受傷時および受傷後の状況・症状について集計したものです。

年齢帯別受傷者数(年度別)
年齢帯別受傷者数(年度別)

我が国の高齢化に伴い、高年齢層の受傷割合が高くなっている
受傷原因別受傷者数
受傷原因別受傷者数
交通事故や転落の割合が高いが、近年は起立歩行時の転倒による受傷割合が高くなっている。
交通事故の種別(年度別)
交通事故の種別(年度別)
交通事故の種別としては、四輪車に次いで二輪車の割合が高い。
スポーツ事故の種別(年度別)
スポーツ事故の種別(年度別)
スポーツ事故の種別は多種多様で、全体数ではスキーorスノーボードによる受傷数が最多で、水泳も多い。
受傷原因別受傷者数(年齢帯別)
受傷原因別受傷者数(年齢帯別)
若年層ではスポーツや交通事故の割合が高いが、年齢の上昇とともに転落や起立歩行時の転倒による割合が高くなる。
脊損高位別受傷者数(年度別)
脊損高位別受傷者数(年度別)
全年度を通じて頚髄損傷の割合が高い。
脊損高位別受傷者数(年齢帯別)
脊損高位別受傷者数(年齢帯別)
年齢の上昇とともに頚髄損傷の割合が上昇している。
男女別受傷者数(年度別)
男女別受傷者数(年度別)
全年度を通して男性の受傷割合が高い。
入退院時レベル(年度別)
入退院時レベル(年度別)
入院時と較べて退院時にA・B・Cの割合は低下し、D・Eは上昇している。
入退院時FIM平均値(年度別)
入退院時FIM平均値(年度別)v
退院時FIM平均値は入院時FIM平均値に比べ46%の上昇をしめしていた。
合併症の発生者数
合併症の発生者数
麻痺域の痛み・しびれについで痙縮の発生数が多い。
褥瘡発生者数(年度別)
褥瘡発生者数(年度別)
全年度を通じて入院中なしの割合が最も高い。
褥瘡発生者数(入院日数別)
褥瘡発生者数(入院日数別)
入院数の増加と共に褥創ありの割合も増えていた。

併存症(受傷前より存在した)
併存症(受傷前より存在した)
高血圧についで糖尿病ありが多い。
排尿方法 (年度別)
排尿方法 (年度別)
自然排尿についで自己導尿の割合が高い。
排便方法 (年度別)
排便方法 (年度別)
自然排便、直腸への薬物使用、直腸への指刺激または摘便、の3種類の割合に大きな変化がない。
転帰 (年度別)
転帰 (年度別)
家庭復帰についで転科・転院の割合が高い。


文献等資料

●【書籍】
1. 全国脊髄損傷データベース研究会 編集: 脊髄損傷の治療から社会復帰まで 保健文化社 2010.
2. 内田竜生、加藤真介、その他 共著 分担: 特集「脊椎背髄損傷 診断・治療・リハビリテーションの最前線」脊椎背髄損傷者の生命予後と死因 脊椎背髄ジャーナル別冊 三輪書店、加藤真介編集273-278 No4.Vol 16,2003.
3. 住田幹男、徳弘昭博、真柄 彰、豊永敏宏、内田竜生 編集: 脊髄損傷のoutcome -日米のデータベースより- 医歯薬出版 2001.

●【論文】
[2012年] 1. Furusawa K, Tokuhiro A, Ikeda A, Tajima F, Uchida R, Tominaga T, Tanaka H, Sugiyama H, Itoh R, Yokoyama O, Kajino T, Kawazu T, Sumida M., Effect of age on bowel management in traumatic central cord syndrome, Spinal Cord. 50:51-56, 2012.

[2011年] 2. Furusawa K, Tokuhiro A, Sugiyama H, Ikeda A, Tajima F, Genda E, Uchida R, Tominaga T, Tanaka H, Magara A and Sumida M, Incidence of symptomatic autonomic dysreflexia varies according to the bowel and bladder management techniques in patients with spinal cord injury, Spinal Cord 49(1):49-54, 2011.

[2010年] 3. 古澤一成、德弘昭博、元田英一、富永俊克、内田竜生、真柄 彰、楫野知道、田中宏太佳、時岡孝光、伊藤良介、横山修、河津隆三、小川隆敏、住田幹男:リハビリテーションデータベース.脊髄損傷データベース、臨床リハ 第19巻 8号 779-785、2010.

[2009年] 4. 古澤一成、德弘昭博:特集 不全型脊髄損傷の病態と理学療法.不全型脊髄損傷者の疫学と病態、理学療法ジャーナル 第43巻 第3号 187-193、 2009.
5. 内田竜生:脊椎・脊髄損傷者の生命予後と死因、ペインクリニック 第30巻 第6号 791-802、2009.

[2008年] 6. 古澤一成:脊髄損傷リハビリテーション-現状・課題・展望.職業復帰、総合リハ 第36巻 10号 965-968、2008.
7. 住田幹男、德弘昭博、真柄 彰、古澤一成(編):脊髄損傷者の社会参加マニュアル.NPO法人 日本せきずい基金、2008.
8. 富永俊克、黒川陽子、住田幹男、德弘昭博、古澤一成、元田英一:中心性頸髄損傷-急性期臨床像の特徴と治療転帰との関連-、リハ医学 第45巻 4号 218-222、2008.
9. 富永俊克、國司善彦、黒川陽子、住田幹男、德弘昭博、古澤一成、元田英一:中心性頸髄損傷の急性期臨床像の特徴と治療転帰、日本職業・災害医学会会誌 第56巻 第4号 153-158、2008.
10. 古澤一成、杉山宏行、池田篤志、德弘昭博:「わが国における急性期・回復期脊髄損傷者リハビリ治療の現状と展望-2006年-データベース結果を 振り返って」.社会的アウトカムからみたリハセンターの存在価値~脊髄損傷について~、日本脊髄障害医学会雑誌 21巻 1号 28-29、2008.

[2006年] 11. 德弘昭博:脊髄損傷、 臨床リハ 第15巻 第9号 824-830、2006.

[2004年] 12. 德弘昭博、豊永敏宏、住田幹男、真柄 彰、内田竜生、元田英一:頚髄損傷の現状、理学療法 第21巻 第8号 1019-1025、2004.
13. 内田竜生、住田幹男、徳弘昭博:脊髄損傷患者における生活習慣病発症頻度とデータベース調査の問題点:日本職業災害医学会会誌 第52巻 第5号 289-294、2004.

[2003年] 14. 徳弘昭博、住田幹男、真柄 彰、内田竜生、豊永敏宏:脊髄損傷データベースからみた 脊髄損傷リハビリテーションの問題点、日本脊髄障害医学会雑誌 第16巻 第1号 200-201、2003.
15. 内田竜生、住田幹男、徳弘昭博、富永俊克:脊髄損傷患者の復職状況と就労支援、日本職業災害医学会会誌 第51巻 第3号、188-196、2003.
16. 内田竜生、住田幹男、徳弘昭博:脊髄損傷者の自殺とその背景要因、日本脊髄障害医学会雑誌 第16巻 第1号 206-207、2003.

[2002年] 17. 古澤一成:勤労者リハビリテーションの現状と課題「脊髄損傷」.日本職業・災害医学会会誌 50巻 第3号、171-175、2002.
18. 古澤一成、徳弘昭博:職業復帰の現状と問題点.総合リハ 30巻 第3号 225-230,2002.
19. 徳弘昭博:全国労災病院脊髄損傷データベースからみた脊髄損傷.医学のあゆみ  第203巻 第9号、 643-648, 2002.
20. 徳弘昭博:脊髄損傷者のADLゴール設定とクリニカルパス. 日本パラプレジア医学会雑誌 第15巻 第1号 34-35, 2002.

[2001年] 21. Sumida M, Fujimoto M, Tokuhiro A, Tominaga T, Magara A, and Uchida R: Early rehabilitation effect for traumatic spinal cord injury. Arch Phys Med Rehabil 82: 391-395, 2001.
22. 徳弘昭博:中途障害者の職業復帰.日本職業・災害医学会会誌 第49巻 第3号、187-192、2001.

[2000年] 23. 徳弘昭博、富永俊克、住田幹男、真柄 彰、内田竜生:脊髄損傷治療における労災病院の機能-全国労災病院脊髄傷調査から-.日本職業・災害医学会会誌 第48巻 第5号、443-448, 2000.
24. 内田竜生、住田幹男、徳弘昭博、田中宏太佳、村田勝敬:脊髄損傷患者死因統計 -第7報生命表分析について- 日本職業・災害医学会会誌 第48巻 第2号、163-168, 2000.
25. 田中芳則、元田英一:全国脊損情報データベースの構築とその問題点 EIREC研究報告集1999年度、25-30、2000.
26. 徳弘昭博:脊髄損傷者の職業復帰 現代医療 Vol.36, No.6, 1471-1476, 2000.
27. 徳弘昭博:高齢脊髄損傷者のリハビリテーション上の問題点.日本パラプレジア医学会雑誌 13(1), 40-41, 2000.

[1999年] 28.内田竜生、富永俊克、住田幹男、徳弘昭博、真柄 彰:脊髄損傷者の転帰に影響を及ぼす要因-FIMによる検討- 日本災害医学会会誌 第47巻 第8号 494-499、1999.
29. 内田竜生、住田幹男、徳弘昭博、田中宏太佳、村田勝敬:脊髄損傷患者死因統計ー第6報 標準化死亡比についてー :日本災害医学会会誌 第47巻 第7号 431-436、1999.
30. 真柄 彰、富永俊克、住田幹男、徳弘昭博、内田竜生:全国労災病院脊髄損傷調査 -合併症に関する分析- 日本災害医学会会誌 第47巻 第3号 160-168、1999.
31. 徳弘昭博、富永俊克、住田幹男、真柄 彰、内田竜生:全国労災病院脊髄損傷調査 -職業復帰状況- 日本災害医学会会誌 第47巻 第3号 169-174、1999.

[1998年] 32. 富永俊克、住田幹男、徳弘昭博、真柄 彰、内田竜生:労災病院における外傷性脊髄損傷患者の機能的改善度と社会復帰状況 日本職業災害医学会誌 第46巻 第12号、717-730、1998.

[1997年] 33. 住田幹男、真柄 彰、徳弘昭博、内田竜生:全国労災病院脊髄損傷調査 -その2、社会復帰状況- 日本災害医学会会誌 第45巻 第3号 210-216、1997.
34. 真柄 彰、住田幹男、内田竜生、徳弘昭博:全国労災病院脊髄損傷調査 -その1、発生治療状況- 日本災害医学会会誌 第45巻 第3号 202-150、1997.