水俣市民の中に「そっとしておいてほしい」という声があることについて、レビタス監督は「まさにそこを描きたかったんです」と理解を示す

水俣映画化のジョニー・デップと監督 地元の「そっとして」への答え:朝日新聞デジタル より

水俣映画化のジョニー・デップと監督 地元の「そっとして」への答え
真野啓太 編集委員・石飛徳樹
2021/9/23 15:00

 水俣病の「公式確認」から65年の今年、米のスター俳優ジョニー・デップ製作・主演の「MINAMATA―ミナマタ―」が日本で封切られた。現実の出来事を元にした劇映画。地元では今も病に苦しむ人が暮らす一方、原因企業チッソの子会社が稼働する。市民は映画をどう感じ、主人公の写真家ユージン・スミスを演じたデップやアンドリュー・レビタス監督は何を意図したのか。
「世界に見てほしい」「昔の水俣に逆戻り」

 熊本県水俣市で18日に市民有志が開いた先行上映会には、市内外から約千人が参加。実行委員会の宮本信明さん(36)は、70年代を知らない若い世代を念頭に「水俣のことを学び、思うきっかけになる」と語った。
 市内の店でも上映会のポスターの掲示を快諾されることが多かったといい、前向きな雰囲気を感じた。「水俣で上映できたのはすごく意味がある」
 スミスがチッソから買収を持ちかけられたり、暴行されたりする描写もある。父親がチッソで働いていたという男性(67)は「小さい時から見聞きしてきた通り。違和感はなかった」と認めつつ「世界の人に見てほしい」と話す。
 一方で、映画によって地域の印象が再び悪くなることを懸念する声がある。上映会とは距離を置いてきたという商店主は、「正直なところ、水俣病のことは、そっとしておいてほしい」と明かした。
 上映会は熊本県が後援する一方、水俣市は「映画の中身がわからない」などとして後援を見送った。関係者は「今も加害者と被害者が共存する街。どちらかの立場に立つような誤解を生みたくなかったのでは」。
 地元の50代男性は「水俣病にまつわる色んな立場の溝を埋めていこうという取り組みが何十年も続いてきた。そうしたところまで表現してもらいたかったが、マインド(意識)を昔の水俣に逆戻りさせるような終わり方に見えた」と語った。(真野啓太)
デップ「これは神の仕業などではなく…」

 水俣市民の中に「そっとしておいてほしい」という声があることについて、レビタス監督は「まさにそこを描きたかったんです」と理解を示す。「周囲の心ない差別と、それによる孤立感が、どれだけ被害者を苦しめてきたことでしょう」
 それでも彼らがこの映画を世に問うたのは、「水俣を繰り返してはならない」という思いからだ。
記事の後半では、ジョニー・デップさんやアンドリュー・レビタス監督が、映画化の理由やエンターテインメントで社会問題を問う意義を語ります。

 デップは言う。「水俣の核心はこれが神の仕業などではなく、人間がやったという事実です。有機水銀という毒を、漁場である海に流す。そんな最も安価で安易な方法を、ほかならぬ人間が選択したんです。水俣のことを知った時、私はいま、何かをすべきだと直感しました」
 映画の終わり、この半世紀に世界で起きた公害や事故が列挙される。チェルノブイリや福島の原発事故も含まれる。
 「こうした人災に対して、人々が小さなグループで闘っているように私には見えます。分断されているんです。だから悲劇が繰り返される。世界で闘う人々が一つにならねばならない」と監督。「そのためにも今までに起こったことを思い出してほしい。でなければ、次の半世紀も同じことが起きてしまいます」
「テイクするだけでなくギブもしなければ」

 ただ、一方的な志だけでは理解は得られず、真実を伝えることもできない。
 水俣を訪れたスミスは、患者の両親に撮影をやんわり拒まれる。患者らと接するうち、スミスは自分に写真家の傲慢(ごうまん)があったことに気づく。彼は人々の前で頭を下げる。「最大限の配慮と敬意を持って撮ります。だから協力して下さい」
 この言葉は監督自身の気持ちでもあった。「文献を読み、地元の人々や専門家に話を聞いて、事の本質を正確に捉える努力をしました。とりわけ日本人のキャストたちが、映画のトーンが間違った方向にいかないよう導いてくれた」
 一方で原因企業の描き方には繊細さも求められた。社長(國村隼)の悪辣(あくらつ)な描写もあるが、人間らしい葛藤もにおわせる。監督は言う。「現実の人間は白黒はっきりしているわけじゃない。決して許容はできないが、國村さんという俳優を得て、社長も様々なプレッシャーを抱えた一個の人間であることを表現出来た。私たちが生きる世界はグレーなんです」
 この映画はスター俳優を使ったエンターテインメントだ。社会問題を訴えるのに自身のスター性を用いることについてデップはこう説明する。「この世界に生を受けたのであれば、最大限に有効活用する必要があると思います。この世界からテイクするだけでなく、ギブもしなければいけない。これまでも誇りを持ってギブできる映画に出てきたつもりです。まあ、全部がそうではありませんが」
 「エンタメは多くの人にメッセージを届けるツール」と監督は言う。「関心のなかった人にも問題の存在を知らせ、行動を導くことが出来ると思うんです」(編集委員・石飛徳樹)
MINAMATA―ミナマタ―

 舞台は、水俣病の被害者と原因企業チッソとの対立が表面化していた1970年代前半の水俣市。米国の写真家ユージン・スミス(デップ)が、妻アイリーン(美波)とともに水俣市を訪れる。彼は、患者の両親(浅野忠信、岩瀬晶子)やチッソと闘う活動家(真田広之)ら地元の市民と交流する中で、被害の実相をカメラに収めていく。


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