JRのためだけに一生懸命やっているだけ…リニア、響かぬJRの御都合主義な「誠実」

 ――リニア中央新幹線の事業は静岡県にどのような意義がありますか。
 「流域が心配しているのは水資源への影響で、リニア事業には反対でない人も多いと思う。17ある東海道新幹線の駅のうち、6駅が静岡県内。リニアが開通すればダイヤの利便性を高められるので、静岡にもメリットがある」

 ――新幹線のダイヤはどのように変わりますか。
 「ひかりの停車回数や列車の本数でどれだけ便利になるかは、確定的なことを言うのが難しい。早いタイミングで便利さを実感してほしいが、先走ったことは言えない」

この答弁のどこに「誠実」があるんだ?

一生懸命やっているのに…リニア、響かぬJRの「誠実」:朝日新聞デジタル より

一生懸命やっているのに…リニア、響かぬJRの「誠実」
矢吹孝文
2020/10/17 14:00
 リニア中央新幹線の静岡工区を巡る大井川流域の水資源問題について、JR東海の金子慎社長は8、9月の記者会見で、リニア工事やJR東海の対応に関する質問に答えた。静岡県との協議が難航する現状については「不誠実な対応をしたつもりはない」と語り、地元側との認識の違いも浮き彫りになった。

山梨リニア実験線で走行試験を始めた新車両=2020年8月17日、山梨県都留市、小渕明洋撮影

 金子社長の会見は原則毎月2回開かれており、今夏は8、9月で4回開いた。
 大井川の水問題で静岡県との交渉がこじれた原因について、金子社長は「静岡県は『もっといい説明をしてくれたら』と言うかもしれないが、私たちは『この説明ではだめなのか、一生懸命やっているのに』と感じた。お互いに主張があって、なかなか理解してもらえなかった」と語った。
 川勝平太知事が「JR東海がデータを出し渋ったことが原因」と指摘していることには、「(議論は)かみ合わなかったかもしれないが、データを出し渋るという不誠実な対応をしたつもりはない」と応じ、指摘を否定した。

記者会見で記者の質問に答えるJR東海の金子慎社長=2020年8月5日、大阪市内
JR東海のリニア中央新幹線は、静岡工区の工事が足踏みし、2027年の開業が難しくなっています。静岡県の地元では「トンネル工事の影響で大井川の水量が減る」などとして反発が強まっていますが、JR東海トップはどのように説明してきたのでしょうか。記事後半では一問一答で最近の記者会見を詳報します。
 大井川の利水者や市町に取材していると、多くの関係者がJR東海の交渉姿勢に「違和感がある」「上から目線だ」と口にする。これに対して金子社長は、「一生懸命に説明してデータも出しているつもりだが、受け取る方が『これでは…』ということで、時間がかかった」と戸惑いを見せ、「(国土交通省の)有識者会議でもう一度きちんとした説明をして、なんとか解決の道を探りたい」と述べた。
 その上で、静岡県内を流れる大井川流域の市町の首長ら関係者に対して「有識者会議の議論の推移や、それに対する私たちの取り組みを見守ってもらいたい」と呼びかけた。
 また、流域市町や利水者に対して経済的な支援や補償をする可能性については「お話があれば、お聞きしていこうということになる」と語り、協議に応じる姿勢を示した。
 品川―甲府間の先行開業については完全に否定した。「指令所や車両基地などは品川から名古屋までのトータルで整備している」とし、「道路と違って『一部ができたらそこだけ開業』ということはできない」という。静岡県を避けるルート変更も、国の審議会でルートが決まったことをふまえて「議論をすべてやり直すことなので、とてもできない」と明言した。(矢吹孝文)

南アルプストンネルの工事のイメージとリニア中央新幹線の計画
金子社長「静岡にもメリット」「説明してきたつもり」

 JR東海・金子社長の主な一問一答は次の通り。
       ◇
 ――リニア中央新幹線の事業は静岡県にどのような意義がありますか。
 「流域が心配しているのは水資源への影響で、リニア事業には反対でない人も多いと思う。17ある東海道新幹線の駅のうち、6駅が静岡県内。リニアが開通すればダイヤの利便性を高められるので、静岡にもメリットがある」
 ――新幹線のダイヤはどのように変わりますか。
 「ひかりの停車回数や列車の本数でどれだけ便利になるかは、確定的なことを言うのが難しい。早いタイミングで便利さを実感してほしいが、先走ったことは言えない」

記者会見に応じるJR東海の金子慎社長=2020年8月27日、東京都内
 【国土交通省の有識者会議】
 ――工事で大井川上流域の地下水位が最大300メートル下がるなど、環境への影響をどう認識していますか。
 「具体的な内容は(国交省の)有識者会議で議論される。個々の問題への私の考えは控える」
 ――有識者会議で「JR東海のデータは不十分だ」との指摘があります。
 「会議の内容については私からコメントできない。各部門の権威といわれる学者が参加して科学的、工学的な観点から、大井川流域の心配を解消することも念頭に議論している」
 ――静岡県の川勝平太知事は、会議の結論が出たら県の専門部会で再度議論すると主張しています。
 「有識者会議には静岡県が設置する専門部会の委員も参加している。意見を取りまとめる際は県の委員の意見もふくめると思うので、その中で意見の差は埋められると期待している。専門部会にかけるとしても、議論をゼロからではなく、スムーズに進むことを期待している」
 ――有識者会議が長期化する可能性もあります。
 「議論すべき内容はたくさんあり、着実に進めてもらっている。その中で『こういう資料はないか』『こういう考え方を示せないか』という指示や意見があるので、できる限り対応したい。地域の心配や懸念を払拭(ふっしょく)する狙いで行われているので、しっかりとした議論に時間をかけることは必要だと思う」
 ――静岡県は、JR東海が出したデータについて「この解析で説明する限り納得は得られない」と批判しています。
 「私たちの解析方法や説明から何をどこまで読み取れて、何を読み取りにくいかは有識者会議で議論しているので、その中で解決してもらいたい。JR東海以外のデータも有用だと議論されているので、方向性を整理してもらいたい」

リニア中央新幹線の南アルプストンネル工事について会談する静岡県の川勝平太知事(左)とJR東海の金子慎社長=6月26日午後、静岡県庁、代表撮影
 【交渉の姿勢】
 ――金子社長は4月、静岡県側の姿勢を「議論が収束しない原因」と発言し、反発を呼びました。
 「あの発言は撤回したので、内容は繰り返さない。ああいう場で一方的だったと撤回したので、内容についてコメントしない」
 ――議論がこじれた理由を今はどう考えていますか。
 「水の問題が、地域にとって非常に切実だということが大きなポイントだ。静岡県から質問を受けて精いっぱい説明をしてきたつもりだが、県側は『説明が足りない、納得ができない』という状態が続いた。スッと説明すれば「はいわかりました」ということではなく、十分に納得感が出るような解決を図らなければならない問題だった」
 ――つまりどういうことですか。
 「当初、静岡県の主張は『トンネル湧水(ゆうすい)を全量戻す』というものではなかったが、川勝知事が『全量戻すべきだ』と発言し、『水問題は本当に大丈夫なのか』と心配する方に納得してもらわないといけなくなった。質問され、答えていると時間がかかってしまった。静岡県は『もっといい説明をしてくれたら』と言うかもしれないが、私たちは『この説明ではだめなのか、一生懸命やっているのに』と感じた。お互いに主張があって、なかなか理解してもらえなかったということにつきる」
 ――川勝知事は「JRがデータを出し渋ったことが原因」と主張しています。
 「それこそ残念で、見解が違う。県の専門部会には説明してきた。議論が行き詰まって私たち自身が困っている。『どういうデータを使って議論するか』ということではかみあわなかったかもしれないが、『出し渋る』という不誠実な対応をしたつもりはない」
 ――多くの当事者が「JRは上から目線だ」と言っています。なぜでしょう。
 「私が直接聞いたわけではないので、答えようがない。私たちは問題を早く解決したくて一生懸命に説明してデータも出しているつもりだが、受け取る方が『これでは……』ということで、時間がかかった。有識者会議でもう一度きちんとした説明をして、なんとか解決の道を探りたい」

大井川の水量が減少傾向にある河口部分。後方が南アルプス=2019年11月、朝日新聞社ヘリから
 【有識者会議の結論】
 ――有識者会議で水問題の議論が終わったら再び着工を求めますか。
 「有識者会議は国交省が所管している。今は会議に対応しているところで、あとのことはわからない。議事をどう進めるか、どういう順序、どういう形でやるかははっきり言えないので、コメントしがたい」
 ――今後はどういう姿勢で大井川流域と向き合いますか。
 「水の問題は大切なので、流域市町と利水者に迷惑をかけないように計画を進めねばいけない。そのために、国の有識者会議が科学的、工学的な見地から議論している。議論が充実するように一生懸命にやっていくので、議論の推移や、それに対する私たちの取り組みを見守ってもらいたい。まず、有識者会議でしっかり理解してもらえるように努力することが大切だ」
 ――有識者会議の結論は受け入れますか。
 「そうです。有識者会議で方向を示してもらい、地元の心配を解消するために一生懸命取り組みたい」
 ――静岡県民や大井川流域の人に伝えたいことはどんなことですか。
 「リニアは重要な問題だが、その前提として、流域市町や利水者に水問題で迷惑をかけないようにしたい。そのために有識者会議が開かれているので、しっかり見守ってもらいたい。リニアは日本にとっても意義があるプロジェクトで、静岡県にとっても東海道新幹線の有効活用になる。今後の有意義なことについても理解して、リニアに協力してほしい」
 ――JR東海は、静岡市で道路建設に140億円を支出します。同様の地域貢献を、他の市町にも用意する考えはありますか。
 「まずは水についての心配を解消することが大事だ。そのメドが立った後については色々な選択肢があるのではないか。『こういうことでどうだ』と条件を出すということではないが、(地元から)お話があればお聞きしていこうということにはなる」
 ――リニア工事全体の進み具合は。
 「沿線各地で着工して着実に進んでいる。難しいといわれるところから先行しており、東京・名古屋間の286キロのうち8割の(工事)契約は済んだ。苦労しているところもあるが、南アルプストンネルのように工程に直接関わるようなところで支障が生じているところは(静岡工区の他には)ない」
 ――静岡県は有識者会議の全面公開を求めています。
 「会議を主催している国交省の判断に任せている。とはいえ、会議には報道機関が自由に入って取材をし、その後には会見もなされている。何か秘密にしているということではなく、十分内容が伝わる仕組みになっている」

リニア工事をめぐる静岡県側の懸念
 【開業時期について】
 ――開業予定はどれくらい遅れる見通しですか。
 「水の懸念を払拭(ふっしょく)し、この問題を片付けないと前に進めない。有識者会議も途中なので、この先どれくらいの時間がかかるのかは言えない。会議が終了してからと思っている」
 ――品川―名古屋間の2027年の開業が遅れることを正式表明しないのですか。
 「沿線の各県には事実関係を連絡して説明している。静岡工区はなかなか着工できないが、他の工区はペースを緩めることなく進めていく。要望には個別に答えたい」
 ――37年の大阪延伸はどうなる見通しですか。
 「37年開業を目指してはいるが、難しい。名古屋までの開業が遅れると大阪への工事が遅れる。名古屋まで開業して収益を上げる前に大阪まで着工するのは経営面でも難しい。今できることは、なるべく充実した準備をしておくことだ」
 ――山梨県や岐阜県の中間駅には1時間に何本くらい停車するのですか。
 「発表はもうちょっと近づいてから。全体のダイヤがどうなるかはまだ確たることは言えない。輸送動向の予想が見えてからダイヤを決めるという順序なので、具体的にいつということも言えない」

南アルプスの山々と大井川=2020年7月21日午後0時10分、静岡市葵区の南アルプス、宮川純一撮影
 【安全性について】
 ――開業後に事故があった場合、南アルプスの非常口付近が危険だという指摘もあります。
 「南アルプストンネルには(並行して掘る)先進トンネルがある。そこは作業に使うトンネルなので、車も通れる通路だ。まずそこに逃げて、そこからどこに行けるかを判断する。『いきなり歩いて、寒いところに出る』というイメージは全く違う。日頃から補修に使っている遮蔽(しゃへい)された通路で避難でき、非常に安全に配慮した形だ」
 ――「そもそもリニアは不要」との意見をどう思いますか。
 「リニアをつくる最大の理由は、東海道新幹線のバイパスをつくることだ。新幹線は東京、名古屋、大阪をつないでいるが災害時の代替がない。抜本的な改革はもう1本つくることで、それを最新技術のリニアでやろうとしている。新型コロナウイルスの拡大で新幹線の利用者が減り、将来に悲観的な意見もあるが、ワクチンや治療薬ができれば輸送は回復する。バイパスをつくる必要はいささかも損なわれていない」
 ――人口減少やリモートワークが進む中、将来の採算性をどう考えますか。
 「リニアの建設の重要性や必要性は変わらない。今はコロナの感染拡大の中で減収が大きくなっているが、時間はともかく立ち直ると思う。コロナの影響でリモート技術が拡大する一方、フェース・トゥ・フェースでないと議論できないことや、行かないと楽しめない旅行の需要が失われるわけではない」
 ――品川―甲府間の先行開業は可能ですか。
 「本来なら品川―大阪の一斉開業が望ましいが、経営体力の観点から品川―名古屋を先に開業させる。一部の先行開業では、東海道新幹線のバイパスをつくるという本来の目的が達成できない。指令所や車両基地などの設備は品川から名古屋までのトータルで整備しているので、道路と違って『一部ができたらそこだけ開業』ということはできない。無理に先行開業すると、後で使わなくなる施設をつくらないといけない」
 ――静岡を通らないルートに変更は可能ですか。
 「ルートは長い議論の積み重ねで決まっている。07年に建設を決め、10年の交通政策審議会から『南アルプスルートがふさわしい』と議論を積み重ねてきた。ルート変更はその議論をすべてやり直すことなので、とてもできない。考えられない」
 ――リニア延期は会社の収益にどう影響しますか。
 「足元の経営への影響はあまりない。単純に言えば開業が延びると収入が減るとは思うが、延期になってもやるべき工事量は大きく変わらない。物価や人件費の変動の方が影響が大きい」
 ――リニア技術を海外に輸出する計画は。
 「米国のワシントンとニューヨーク間でリニアを実現できないか取り組んでいる。渋滞が多いところで、実現したら便利だ。米国ではリニアが身近ではないので、ワシントンから約70キロ離れたボルティモアという都市で便利さを周知して、建設が進むようにプロモーションをしている。米国は関係の深い同盟国で、実現すればいろいろな意味で関係強化になるので国も応援してくれている」


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