完成延期重ね、費用約3兆円 突き進む六ケ所再処理工場

完成延期重ね、費用約3兆円 突き進む六ケ所再処理工場:朝日新聞デジタル より

完成延期重ね、費用約3兆円 突き進む六ケ所再処理工場
桑原紀彦
2020/7/27 7:00
 核燃料サイクル政策の中核施設で、「放射性物質の化学工場」ともたとえられる日本原燃六ケ所再処理工場(青森県六ケ所村)。新規制基準への適合が29日にも正式決定されるのを前に、構内の安全対策工事を取材する機会を得た。すでに約2・2兆円まで膨らんだ建設費に、7千億円を追加投入する大工事。現場は「来年度上期完成」の号令のもとに突き進んでいるが、「本当に実現できるのか」という疑念は晴れることがなかった。

日本原燃の六ケ所再処理工場=2018年11月、青森県六ケ所村、朝日新聞社機から、恵原弘太郎撮影
着工から27年、再処理工場の今
六ケ所再処理工場の建設は1993年に始まり、設備のトラブルなどで今も完成を見ない。それでも国が推進を掲げる核燃料サイクル政策とは何なのか。巨額の建設費が投じられ続ける工場の中を回り、改めて見つめ直す

六ケ所再処理工場、新基準適合を了承 原子力規制委
 青森市中心部から車で1時間あまり。森と沼に囲まれた丘を切り開いた広大な土地に、天を突く煙突と、積み木を並べたように直方体の建屋がひしめく。遠くからみた再処理工場はそんな光景だ。敷地面積は東京ドーム83個分、390ヘクタール。建屋の数は20を超える。ここに、全国の原発から集まった使用済み核燃料が容量の満杯に近い2900トン貯蔵されている。

丘の上に立つ六ケ所再処理工場=2020年7月16日、青森県六ケ所村

「放射性物質の化学工場」 人がすぐ死に至るレベルの廃液も

 使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出し、原発の燃料として再利用するのが核燃料サイクル政策。利用が進まず、事実上破綻(はたん)しているにもかかわらず、東京電力福島第一原発事故を経た今も国は推進を掲げ続けている。燃料棒をバラバラに切断して硝酸などで溶かし、ウランとプルトニウムを分離・抽出するプロセスを担うのがこの再処理工場。「放射性物質の化学工場」と言われるゆえんだ。
 使用済み核燃料や、ウランなどを分離した後に残る高レベル放射性廃液は、人が近づくと被曝(ひばく)線量があっという間に死に至るレベルになるほど放射能が強い。水やコンクリートで放射線を遮り、慎重に取り扱う必要がある。

直径3メートルの巨大ダクト。これにも竜巻対策として防護板が取り付けられる=2020年7月16日、青森県六ケ所村
 建屋の多くには窓がなく、無機質な空気が漂う。耐震性を高めるためだそうだが、広報担当者は「人が触れないレベルの放射性物質を扱うので、作業は機械での遠隔操作。人がいないので、窓もいらない」。建屋の壁と屋根には、直径3メートルのダクトが巨大な尺取り虫のようにはわされていた。
「青森で一番高い建物です」

150メートルの主排気筒。足元では竜巻防護対策のため取り付ける鋼鉄板の工事が行われ、足場が組まれていた=2020年7月16日、青森県六ケ所村
 「これ、青森で一番高いんですよ」。担当者が見上げて胸を張ったのは、高さ約150メートルの「主排気筒」だ。使用済み燃料を切断する「前処理建屋」などにつながり、工程で出てくる気体状の放射性廃棄物をフィルターで取り除いたうえで大気中に放出する。
 その足元には、3分の1くらいまで、びっしりと銀色の足場が組まれ、伸びたクレーンが鉄骨をつり上げていた。足場の隙間から「H」の字を重ねたように組まれた鉄骨がのぞく。ここに厚さ9ミリの鋼鉄板を取り付け、風速100メートルもの竜巻で飛ばされてきた物がぶつかっても、穴が開かないようにするのだという。
 竜巻対策は、福島第一原発事故後に施行された新規制基準で求められている安全対策の一つだ。原発と並んで再処理工場も審査の対象になり、耐震対策の強化や飛行機墜落事故対策などとあわせて必要になった。原燃は新基準に対応する安全対策工事を十数カ所で2013年から実施。今は1日6千人の作業員が工場を出入りしているという。

「前処理建屋」の前に冷却塔を移設する工事。地盤改良のためバキューム車が泥を吸い出し、クレーンが資機材をつり下げていた=2020年7月16日、青森県六ケ所村
 前処理建屋の前では、地面にコンクリートが流し込まれ、バキューム車から伸びるホースが泥を吸い出していた。放射性物質を冷やす水をためる冷却塔を移設するため、地盤を固めているのだという。現在の冷却塔は約100メートル先の建屋屋上にあるが、竜巻対策のために防護ネットなどで囲うと重くなり過ぎて建屋の耐震性に影響するため、移すことになったそうだ。

完成からまだ9年 でも建て直し

工事中の「緊急時対策所」。収容人数を増やすため大型化し、耐震設計も高めた=2020年7月16日、青森県六ケ所村
 ほかにも、造り直す建物がある。放射性物質が漏れ出すような重大事故の際、社員らが詰めて情報収集や指揮を執る「緊急時対策所」。東電柏崎刈羽原発(新潟県)で火災の通報に手間取った07年の中越沖地震を教訓に11年に完成させたばかりだが、耐震性や収容人数に問題があるとして、用地を確保できた約1キロ離れた場所に建て替えることにしたという。旧建屋は「使い道は決まっていない」と担当者は説明した。
森の間を縫ってつくられた「防火帯」=2020年7月16日、青森県六ケ所村
 取材の終盤、松や杉の林を灰色のアスファルト舗装で分断した道路に出た。約1キロ先の「むつ小川原国家石油備蓄基地」から火災が広がった際に、延焼を食い止めるための防火帯だ。構内の移動に使った大型バスを縦に2台並べたほどの27メートルの幅で、敷地境界をぐるりと約7キロにわたって取り囲む。普段は従業員らの通行に使うのだろうか。質問すると、「基本的には何の用途にも使いません」と返ってきた。
 途中立ち寄った事務所の壁に、原発を運営する電力会社から寄せられた手書きの「応援メッセージ」があるのが目にとまった。「サイクルは原子力の夢です。実現までもう少し」。原燃は、電力各社が電気料金を元手に積み立てた拠出金をもとに運営され、少なくない人員が出向・転籍してきている。再処理工場の着工は1993年。当初は97年に完成する予定だったが、設備のトラブルなどでこれまでに延期を24回繰り返し、建設費を膨張させてきた。

航空機墜落による火災から守るため、地上にある三つの薬品貯槽を地下8メートルに移設する工事の現場。15メートルまで掘り下げ、コンクリートの囲いを作り、中に貯槽を設ける=2020年7月16日、青森県六ケ所村
来年度上期の完成目標「相当の努力しないと無理」

 新規制基準に基づく安全対策の審査は大詰めを迎え、原子力規制委員会は今月29日にも新基準適合を正式決定する見込みだ。報道陣の案内を終えた原燃の越智英治・執行役員は「(申請から)6年半もやってきて、まだか、という思いもあった。我々がめざしているのは竣工(しゅんこう)だが、気持ちを新たに次のステージに入れる」と語った。
 ただ、新基準適合が決まった後も、完成までには規制委による設備工事計画の認可や検査が残る。対象となる機器は1万点以上。原燃は工事計画の認可申請を「今秋」としている。
 原燃のめざす21年度上期の完成は可能なのか。更田豊志委員長は今年6月の記者会見で「機器の数だけで計算したら数年のオーダーになる」と見通す。そのうえで、別の会見ではこう指摘した。「(原燃の目標は)かなり野心的。相当の工夫と努力をしないと実現は難しい」(桑原紀彦)


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