天守のエレベーターで激論 忠実な復元かバリアフリーかなんて論外-公共施設はバリアフリー

天守のエレベーターで激論 忠実な復元かバリアフリーか:朝日新聞デジタルより
天守のエレベーターで激論 忠実な復元かバリアフリーか
関謙次、岩尾真宏 2019年1月15日05時00分

 全国各地で、城の再建や修復が進んでいる。本来の城は難攻不落の「バリアー」だが、いまは市民の憩いの場や観光の目玉として「バリアフリー」を求められる時代でもある。どう折り合いをつければいいのだろうか。

 名古屋のシンボル・名古屋城は、昨年5月から天守への入場が禁止され、石垣が足場に覆われている。河村たかし名古屋市長が木造天守の再建を目指しているが、そこにエレベーターが設置されないことになり、障害者団体から強い反発を受けている。

 名古屋城天守は徳川家康の命で1612年に建てられ、300年以上その姿をとどめてきたが、太平洋戦争末期の空襲で焼け落ちた。戦後、市民の寄付などによってコンクリート製で再建され、屋内外に計3基のエレベーターが取り付けられた。

 それから約60年が経ち、耐震強度不足が問題になった。河村市長は、焼失前の天守の実測図や写真などが豊富に残ることから「寸分たがわぬ復元」を公約に掲げ、2017年の市長選で4度目の当選を果たした。22年末の完成を目指している。

 河村市長は昨年5月、「史実に忠実な復元のため」として新天守にエレベーターを設けないと決めた。その代替策に示したのは、移動補助ロボットやドローン、仮想現実(VR)など、まだ実用化されていないものを含む「新技術」だった。河村市長は「国宝だったものを感じられるようにするのがバリアフリー」「新技術で(少なくとも)1階まで上がれることは保証する」などと話している。

 11月17日、名古屋市中心部の街頭で、車いすの人たちが新天守にエレベーター設置を求める署名を呼びかけた。「障害者だけでなく、高齢者やベビーカーを押したお母さんも名古屋城を楽しめるように、私たちは活動しています」

 「全ての人が安全に上れるのはエレベーターしかない」というのが、名古屋市の障害者団体の主張だ。「木造天守にスプリンクラーや避難路はつけるのに、エレベーターは『史実に忠実でない』と設置しないのはおかしい」とも指摘する。障害者や高齢者の円滑な移動を目指す「バリアフリー法」や、行政機関に障害者への合理的配慮を義務づける「障害者差別解消法」に反しているとして、昨年6月に市中心部で約600人(主催者発表)がデモ行進した。さらに今月7日には日本弁護士連合会に人権救済を申し立てた。「共生社会の実現を目指す世界の潮流に反した有害なシンボルを建てるものでしかない」などと厳しく批判し、徹底抗戦の構えだ。

 名古屋市は障害者の協力を得て「新技術」を実用化しようとするが、見通しは立っていない。市の担当者は「(河村氏と障害者側の)双方が歩み寄らないと解決できない。どうやって溝を埋めたらいいのか」と頭を抱えている。

 名古屋城のように戦災などで焼失し、コンクリートで再建された城は全国各地にある。近年、改修を機に新たにバリアフリー化するところが出てきている。

 大阪城は1997年に完工した「平成の大改修」で、エレベーターを増設した。2016年の熊本地震で大きな被害を受けた熊本城も、「復旧にあわせてバリアフリー化を進める」(熊本市)として、高齢者や障害者用に3基のエレベーターを設置する予定だ。今年再建60周年を迎え、大幅にリニューアルする小倉城(北九州市)も、エレベーターが新設される。首里城(沖縄県)に天守はないが、中心施設の正殿に上がれるようにスロープやリフトを設けている。

 一方、江戸時代以前から残る木造天守は、姫路城や松本城、松江城など12城ある。いずれも国宝や重要文化財に指定され、エレベーターが設置されているものはない。近年は掛川城(静岡県)や白河小峰城(福島県)など木造復元される城も相次いでいるが、規模が小さいこともあり、天守にエレベーターが設置された例はない。コンクリート製の小田原城(神奈川県)は2016年の耐震改修の際にエレベーター設置が検討されたが、「大規模な改修になり、建築基準法に基づく手続きをやり直さないといけなくなる」(小田原市)として見送られた。松前城(北海道)では昨年12月に木造化する方針が固まったが、エレベーターについては今後検討するという。

 専門家の意見も分かれる。公益財団法人「日本城郭協会」の加藤理文理事は「城は本来防御施設だ」として、バリアフリー化に慎重な立場だ。特に名古屋城については「写真などの資料が豊富で本来の姿に戻せるのに、なぜ本来ないものを設置するのか。マンパワーで運ぶなど、ハード面ではなくソフト面で対応するべきだ」と、エレベーター設置に反対する。

 一方、城郭考古学が専門の千田嘉博・奈良大教授は「現存する姫路城などにエレベーターを付けるかと言われれば賛成できない」としながら、「現代の城は史跡であって、軍事施設ではない。公金を使った史跡復元は、子連れの家族、障害者、お年寄り、すべての人に開かれるべきだ」と、名古屋城へのエレベーター設置に理解を示す。

 史跡を管理し、城の再建工事を許可する権限を持つ文化庁は、エレベーター設置の是非について「所管ではない」として見解を示していない。林芳正文部科学相(当時)は、昨年5月の参院委員会で名古屋城のエレベーター問題に関連し、「史跡の価値を適切に保存し、次世代に確実に伝えることが不可欠だ」とした上で、バリアフリーなど「ほかの諸価値との調整が必要になる場合もある」と答弁している。

 文化遺産と社会との関わりを研究する松田陽・東大准教授(文化資源学)は「賛否双方の意見に納得できる部分があり、ともに間違っていない選択肢の中で、どちらを選ぶかだ。他の自治体にとっても無関係な問題ではないと思う」と指摘する。また、1931年に建てられた大阪城天守がコンクリート製ながら「国土の歴史的景観に寄与している」として登録有形文化財になっていることを挙げ、「オリジナルではなくても、当時の民意を反映して造られたものには価値があり、新たな文化財になっていく。エレベーターがあったとしても、100年後に『21世紀の文化財の復元はこうだったんだ』と認められるのではないか」と話す。(関謙次、岩尾真宏)

関連記事Similar Posts:

カテゴリー: 気になるニュース, 福祉のまちづくり, 障害福祉 パーマリンク