脊髄損傷の再生医療、リハビリも進化 ロボが歩行手助け

脊髄損傷の再生医療、リハビリも進化 ロボが歩行手助け:朝日新聞デジタルより
脊髄損傷の再生医療、リハビリも進化 ロボが歩行手助け
戸田政考 2018年12月21日13時27分

 完全に回復する治療法がない脊髄(せきずい)損傷の改善を目指す二つの再生医療が、相次いで節目を迎えた。研究から実用化の段階に移るにつれて、安全性に加え、効果や費用など、患者にとってより良い治療法かどうかが問われることになる。一方、再生医療による治療効果を一層生かすため、リハビリ手法の研究も進む。

 脊髄損傷は国内で毎年5千人が新たになり、患者は10万人以上とされる。わずかな運動や知覚の機能改善でも患者の生活に大きく影響する。

 こうしたなか、先月、札幌医科大の本望修教授らと医療機器大手ニプロが開発した、間葉系幹細胞を使う細胞製剤「ステミラック注」の製造販売が、厚生労働省の部会で了承された。また、iPS細胞を使う慶応大の計画を学内委員会が承認。国に提出した。認められれば来夏以降に臨床研究が始まる見込みだ。

 ともに「亜急性期」と呼ばれる負傷後数週間の患者が対象だ。将来的に、患者の多くを占める損傷から時間がたつ慢性期の患者の治療を見据えている。

 それぞれに仕組みは違い、利点と課題がある。

 ステミラック注は患者自身の細胞を使うので拒絶反応を抑える免疫抑制剤は不要だ。治験では13人中12人で機能の改善が確認された。ただ幹細胞を点滴で注入するため損傷部に届くのは一部。「改善する仕組みがはっきりしない部分がある」と話す専門家もいる。

 製剤は公的医療保険の適用を受ける見通し。今後7年間のうちに、これを使った90人と、リハビリだけの179人を比べて効果と安全性を引き続き確かめる。

 慶応大の岡野栄之教授と中村雅也教授の臨床研究は、iPS細胞を神経のもとになる細胞に変化させ、損傷後2~4週間の患者の機能改善を目指す。損傷部に直接移植し、神経細胞に変わるので仕組みは明確だ。ただ、他人由来の細胞を使うので免疫抑制剤を使う。臨床研究は半年の入院やリハビリも含めて1人1500万円ほどかかる。

 iPS細胞は腫瘍(しゅよう)化のリスクがある。今回は安全性を優先して移植する細胞は200万個にとどめ、特殊な化合物を加えてリスクを抑える。その後、本来の800万~1千万個を移植する臨床研究を目指す。

 再生医療に詳しい藤田医科大の松山晃文教授は「けがの仕方や損傷部などによって、どちらの治療がいいかは違ってくるだろう。今後多くの症例を見ながら、効果を確認していく必要がある」と話す。

ロボットやセンサーを活用
 脊髄損傷の機能障害は「ASIA分類」というA~Eの5段階の尺度がある。最も重いAは運動機能などが失われた完全まひだ。今回の細胞製剤と臨床研究はともにAからB以上を目指している。

 脊髄損傷の治療は再生医療とリハビリを両輪で進める必要がある。損傷から半年以内なら、リハビリだけでAからBや、BからCなどに改善することもあるほど効果は大きい。さらに再生医療の効果を最大限生かすため、国立障害者リハビリテーションセンター(埼玉県所沢市)の河島則天(のりたか)さんは新たなリハビリ手法の開発に取り組む。「再生医療の進歩にあわせてリハビリの刷新を図りたい」

 現在のリハビリは車いすの使い方など社会生活への復帰が重視されがちだが、リハビリによる改善が頭打ちとなる慢性期も含め、まひした機能の回復に重点を置く。

 その一つが、スイス製のロコマットというロボットを使うもの。患者をベルトでつり下げるように支える。機械で挟んだ足を前後に動かし、ランニングマシン上を歩くのを手助けする。1回15分を2セット、従来のリハビリより長い計1・5キロを歩く。

 腹や足など計16カ所にセンサーをつけ、筋肉の反応を監視。まひした足を動かそうとする脳からの指示に、筋肉の働きが連動しているかを確認しながらリハビリする。

 「動き出していると感じる筋肉があり、グラフで確認できるのでモチベーションにつながる」と慢性期の完全まひの女性(31)は話す。

 女性は約5年前、事故で完全まひになった。今年自身の鼻から採取した粘膜を移植する手術を大阪大で受け、約10カ月このリハビリに励む。「色々な再生医療が増えるのは楽しみ。慢性期にも効く治療法ができれば」と願う。(戸田政考)

     ◇

脊髄損傷の二つの治療法の特徴
      札幌医科大・ニプロ  慶応大

・使う細胞 自身の間葉系幹細胞  他人由来のiPS細胞

・細胞の数 5千万~2億個    200万個

・移植方法 静脈に点滴      損傷部に注射

・主な働き 炎症を抑え、神経の再生を促す  神経細胞にする

・段階 厚労相承認後、製品に   来年にも臨床研究を予定

・対象 ともに亜急性期


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