「ネット右翼」イメージと異なる実態 研究者から警鐘

「ネット右翼」イメージと異なる実態 研究者から警鐘:朝日新聞デジタルより
「ネット右翼」イメージと異なる実態 研究者から警鐘
聞き手=編集委員・塩倉裕2018年11月1日17時05分

 国籍や性別、性的指向……。少数者に向けられる差別やヘイトスピーチが止まらない。過激な言動で知られる「ネット右翼」と呼ばれる人々の実態調査に早くから取り組んできた辻大介・大阪大学准教授(コミュニケーション論)は、「彼らの言動を過剰に意識するな」と警鐘を鳴らす。

 ――「ネット右翼」の人々がどのような政治的意識や属性を持っているのか、調査をしてきましたね。

 2007、14、17年と3回にわたり、ネット利用者を対象に調査を続けてきました。愛国や差別、排外主義の言動を過激に行う集団として、無視できない存在となったからです。

 ――どんな人をネット右翼と規定したのですか。

 私たちの調査では、嫌韓・嫌中を訴える、靖国参拝支持など保守的政治志向を持つ、ネットで意見発信するの3項目すべてを満たす人を、ネット右翼としました。当初はネット右翼の問題というと「歴史修正主義」が中心でしたが、近年は差別やヘイト、排外主義の問題に重点が移動しつつあるように感じます。

 ――ウェブ調査から見えたネット右翼層の実態は、どうだったのですか。

 一般には「貧しい若者が、ネットでうっぷんを晴らしている」というイメージが広がっていますが、実態は異なっていました。特定の年齢層や年収レベルとの関連性は見えなかったのです。高齢層や「中流」の人々が含まれている事実にも、留意すべきです。

 他方、ネット利用者全体に占めるネット右翼層の割合は、一貫して1%ほどに過ぎませんでした。話題にビビッドに反応する「強い固まり」ではあるけれど、規模は小さいのです。

 また4168人が回答した昨年11月の調査では、自分自身はネット発信をしないものの嫌韓・嫌中の感情と保守的政治志向の両方を備えた層(シンパ層)も全体の5・3%いました。そちらにも注意が必要です。

 ――1%ほどの集まりがときに大きな存在感を示すのは、なぜでしょう。

 ネットの世界では「誰が発言しているか」が見えにくいからです。会議場に100人が集まって議論すれば、「発言した人は少数で、うち1人が極端な発言を繰り返していた」という実態が誰の目にも明らかです。しかしネット上では、一握りの人が繰り返し書くと、そうした意見に視界が占められやすい。「多くの人がそう考えている」という錯覚が起こるのです。

 ――ネット右翼層の考えにはどういう特徴が見えますか。

 昨年11月の調査で、「外国人や少数民族の人たちは、平等の名のもとに過剰な要求をしている」という項目を初めて盛り込みました。「そう思う」と答えた人の割合は、一般の利用者では9・7%でしたが、ネット右翼層では52・9%に上っていました。「まあそう思う」も含めると、実に75・3%が「過剰な要求」だと感じていたのです。

 ここに表れている意識は、欧米で「現代的レイシズム(人種差別)」として注目されているものです。特定の人種について能力や品性が劣っているとみなすのが古典的レイシズムだとすれば、現代的レイシズムは「人種差別は改善されたのに、少数派は『平等』を掲げて不当に権利を要求している」と主張します。多数派である自分たちの権利が少数派によって踏みにじられていると、ねじれた訴えをするのです。

 また調査では、客観的な収入レベルより、「自分は恵まれていない」という主観的な意識の方が差別的言動につながる可能性も示唆されました。

 ――LGBTに税金を投入していいのかと月刊誌「新潮45」(休刊)で訴えた杉田水脈衆院議員の発言が話題になりましたね。

 あの発言は「現代的」な性差別やヘイトの一例です。LGBTはそんなに差別されていないのだと強調しつつ、その人たちを支援する必要があるのかと訴える内容だったからです。

 現代的な差別が危険なのは、人々の正義感に訴える見かけを持つからです。「不当な要求をする連中だ」というまなざしは、容易に「我々の敵だ」という認定に転じるでしょう。

 ――ネット右翼的な読者を意識した雑誌や単行本が多く出回るようになっています。ネットや新聞、テレビなど、メディアが注意すべきことは何でしょう。

 ネットで言えば、ヤフーやフェイスブック、ツイッターなどの「プラットフォーム」の取り組みが求められます。ヘイトを野放図にたれ流す状態に歯止めをかけ、表現の自由を守りつつ場の公正性を高めていく努力を自主的に進めていけば、状況は改善されます。

 新聞やテレビについて言えば、1%かせいぜい数%レベルの言動に対して注意は必要ですが、過剰に意識しすぎないことも大事だと思います。千や万という単位で商売する雑誌媒体が1%規模の市場に引きつけられるのはまだ分かりますが、100万や1千万人という受け手を相手にしているはずの新聞やテレビの関係者までが意識しすぎる現状には、疑問を感じます。(聞き手=編集委員・塩倉裕)

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