停電「たんが吸引できない」 知らなかった福祉避難所

停電「たんが吸引できない」 知らなかった福祉避難所:朝日新聞デジタルより
停電「たんが吸引できない」 知らなかった福祉避難所
千種辰弥、布田一樹、竹野内崇宏2018年10月28日20時49分

熊本学園大学はホールを避難所として開放。座席を収納したフロアで車椅子利用者らが過ごした=2016年4月18日、熊本学園大学提供

 高齢化が進む中、災害が起きた時の福祉避難所の役割が大きくなっている。受け入れられる施設は増えているが、人手の確保や住民への周知など運営面に課題が残る。福祉避難所にとどまらず、一般の避難所の福祉機能を充実させる、在宅の災害弱者に目を配るなど、地域全体の多様な取り組みも問われている。

 紀伊水道に面した和歌山県有田市は9月、台風21号と24号に襲われた。市は文化福祉センターに福祉避難所を開き、簡易ベッドと間仕切りの段ボールを設置。職員と保健師計3人で運営し、24号では高齢者や障害者ら約40人が避難した。

 持病のある男性に1時間ごとに声をかけ、2~3時間おきに2人がかりでトイレの介助をした。介護が必要な女性らの様子も見て回った。そこへグループホームから「認知症の10人を受け入れてもらえないか」と打診された。結局、避難して来なかったが「手いっぱいで受け入れられる状態ではなかった」と振り返る。

 市は福祉避難所に保健師を2人ずつ8時間交代で配置することにしているが、保健師は約10人で、開設数を増やすのは難しい。一方、避難行動要支援者は約1300人。担当者は「他の医療専門職もシフトに入ってもらわないと、十分な態勢がとれない」と悩む。

 人口約230万人の名古屋市。避難行動要支援者として約28万5千人が登録されている。市は9月末までに福祉避難所を121カ所指定したが、収容可能人数は全体の2%弱の約5千人にとどまる。市は「福祉避難所の利用は、障害などで避難所生活が本当に難しい人に限ってほしい」と訴えている。

北海道地震の大停電、機器が使えずに…
 福祉避難所をどう周知するかも問題になっている。

 「たんが吸引できない」。9月6日未明に最大震度7の揺れが襲った北海道。その朝、日本初のブラックアウト(大停電)の中で、寝たきりの長男(20)がいる札幌市の桑本佐代子さん(45)は焦っていた。長男は免疫作用が低下する難病で1日15~20回のたん吸引が欠かせないが、機器が使えなくなり、停電解消までの2日間、自宅でつきっきりで世話をした。

 長男の身体を起こしたり背中をさすったりして、たんがからまないようにした。切開したのどの穴からティッシュでたんをかき出す作業に追われた。病院から電池式の吸引器を借りたが、血圧などを表示するモニターは消えたまま。長男のそばを離れず、常に呼吸を確認できるようにした。「朝起きて亡くなっていたらどうしよう、と。とにかく不安だった」

 今回の地震で、市は福祉避難所を2カ所開き、災害対策本部の場で説明した。避難所に来た障害者2人に介助が必要だったためだが、HPでは公表しなかった。桑本さんは「福祉避難所の存在すら知らなかった」と不満を漏らす。

 内閣府は福祉避難所の情報を広く周知するよう求めており、市の対応をめぐって議論も起きた。市の担当者は「健常者も含めて殺到すると、受け入れができなくなる恐れがあった」と話し、内閣府に一連の経過について問題がないか照会。「今後、内部で検証したい」としている。

注目集めた「熊本学園モデル」
 2016年4月の熊本地震で、本震2日後の18日時点で開設された福祉避難所は10カ所。126人の要配慮者が身を寄せたが、当初は自治体が場所を公表しないなど、混乱が続いた。

 一方、福祉避難所に指定されていなかった熊本学園大学(熊本市)は、障害者60人を含む被災者約750人を受け入れた。その傍ら、教員らが困り事を聞き取り、家の片付けなどを社会福祉学部の学生たちが手伝った。この手法は「熊本学園モデル」と呼ばれ、注目を集めた。

 自身も車椅子で生活し、国の障害者制度改革担当室長を務めた同大の東俊裕教授は「地域の誰でもが身を寄せられる『インクルーシブな避難所』をめざした結果」と振り返る。その上で「福祉避難所がうまく機能するためにも、一般の避難所で障害者や災害弱者を受け入れられる態勢をつくる必要がある」と訴えた。

 内閣府も13年から、▽小学校など一般の避難所でも特別教室などを要配慮者向けの「福祉避難室」とする▽車椅子が通れる通路幅を確保する――などを呼びかけてきた。101の福祉避難所を指定している福岡市は今年4月、432ある一般の避難所にも原則、福祉避難室を設けることを決めている。(千種辰弥、布田一樹、竹野内崇宏)

【開設した経験から出てきた課題】
・福祉避難所に指定した施設が被災したり、制度の周知や運営のノウハウ不足(熊本県)
・自宅にこもりがちになる人への情報提供(岡山県)
・道路の通行止めで職員の出動が難しくなり、施設の運営などに苦慮(高知県)

【開設の周知に関して】
・優先度が高いと言えない人が大勢避難し、高い方々が利用できなくなる懸念(複数の県)
・要配慮者本人や支援者に限定して周知するといった工夫を市町村に求めている(岩手県)

【施設確保への取り組み】
・県総合防災訓練で避難者の受け入れやスクリーニングを住民参加型で実施(徳島県)
・市町で実施する福祉避難所訓練への補助(兵庫県)

【国への要望】
・運営に必要な人員の派遣調整システムの構築(徳島県、熊本県)
・市町村内の施設だけでは対応できず、広域的な取り組みが必要(和歌山県)
・指定に必要な施設整備、開設・運営にかかる費用への補助(多数の府県)

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