コンラート・ツーゼさん

  • < 一般論文>コンラート・ツーゼにおける計算機観–計算機械から汎用情報処理機械へ–より
    3.2 条件組合せ論の構築と命題計算との出会い
     以上に述べたようなハードウェア製作と並行して,ツーゼはのちのプランカルキュールへと繋がる,二進数を利用した計算理論の構築も進めていた.ツーゼは 1935年頃には既に計算機内部での数表現方式として二進法の採用を決めていたものの,当時彼の知る範囲で実用に供されていた計算機はすべて十進歯車式であったため,彼は自ら二進法による計算機構を考案する必要があった28.
     ツーゼは大学時代に自分の専門である土木工学の分野で必要な数学については教育を受けていたものの,その中には当時活発に研究されていた数学基礎論や集合論,数理論理学などは含まれておらず,ブール代数も彼の知る所ではなかった 29.そのため彼が二進数を用いた演算器を製作するために最初に参照したのは,17 世紀の数学者・哲学者ライプニッツの二進計算理論であった.これを参考にしてツーゼは 1936年から 1937年にかけて「条件組合せ論(Bedingungskombinatorik)」という,スイッチ回路による計算理論を独自に考案する.彼がこれについて 1937年にギムナジウム時代の数学教師に意見を求めたところ,ツーゼの条件組合せ論は専門家の間ではブール代数,あるいは命題計算(Aussagenkalkul¨ )として知られている,という返答を受けとる 30.このことはツーゼに強い衝撃を与えたらしく,彼はのちに「これは私にとって驚くべきことだった.この数理論理学的な代数はギムナジウムの数学の授業でも,大学の講義でも一度も触れられたことがなかった.そして私はヒルベルト・アッカーマン,フレーゲ,シュレーダーといった論理学者について学んだ.当時ブール代数はドイツではほとんど知られていなかった 」31 と振り返っている.ブール代数や論理学を独学で学習しつつ,これを回路構成に応用する研究に取り組み初めたことを契機として,ツーゼは計算およびこれを行う計算機の見方を転換していく 32.1937年6月の日記には次のような記述がある.

    それによってあらゆる計算処理と思考処理を解決することが出来る基本処理が存在することに気づいた.機械的頭脳の原始的なタイプは貯蔵部と選別部,2,3 の要素からなる単純な条件列を処理することが出来る単純な装置から構成される.それを解くのに要する時間を無視するなら,何らかのメカニズムによって把握できるあらゆる思考問題は,このような形式の頭脳によって解くことが理論的に可能でなくてはならない 33.

    28 Ceruzzi 1981, p. 244. ツーゼが数表現方式に十進法ではなく二進法を採用した理由は定かでないが,彼は自伝の中で二進法の採用により組み込み演算器,とくに乗算器の機械的構成を単純化できるという利点があったことを述懐している(Zuse [1984]1993, p. 43).二進計算の発想自体は古くからあるが,二進法を用いた計算機械は 1935 年時点ではほぼ知られておらず,ツーゼは計算機に二進計算を導入した人物としては最初期に属する人物である.同時期に二進法を計算機に導入することを考えていた人物としては,1937 年から 42 年にかけて ABC(Atanasof-Berry Computer)を開発したアイオワ州立大学のジョン・アタナソフ(John Atanasoff)らがいる.
    29 Ceruzzi 1981, p. 244 ; Zuse [1984]1993, p. 40.
    30 Zuse 1984, p. 40. これまでツーゼの自伝に参照する際は英訳(Zuse [1984]1993)を参照してきたが,以降検討の都合上重要と思われる場合、原著(Zuse 1984)を適宜参照する.
    31 ibid.
    32 この分野を学ぶにあたって使用した書籍として,ツーゼは『記号論理学の基礎(Grundz¨uge der theoretischen Logik)』(ヒルベルト・アッカーマン,1928),『論理代数講義(Vorlesungen ¨uber die Algebra der Logik)』(シュレーダー,1890–1905),『概念記法(Begriffsschrift)』(フレーゲ,1879)を挙げている(Zuse 1984, p. 74).ただし彼が参照した版は定かでない.
    33 “Erkenntnis, daß es Elementaroperationen gibt, in die sich samtliche Rechen- und Denkoperationen ¨ auflosen lassen. Ein primitiver Typ eines mechanischen Gehirns besteht aus einem Speicherwerk, ¨ Wahlwerk und einer einfachen Vorrichtung, in der einfache Bedingungsketten von 2–3 Gliedern be- ¨ handelt werden konnen. Mit dieser Form des Hirns muß es theoretisch m ¨ oglich sein, s ¨ amtliche Denkauf- ¨ gaben zu losen, die von Mechanismen erfaßbar sind, jedoch ohne R ¨ ucksicht auf die dazu erforderliche ¨ Zeit.”(Zuse 1984, pp. 39–40)ツーゼは Zuse(1984)の中で 1937 年当時の日記を紹介しており,手書きの原典は Zuse Archives で見ることができる.翻訳にあたっては 1993 年の英訳(Zuse [1984]1993)を参考にした.

  • Konrad Zuse Internet Archive
  • (2) Konrad Zuse und seine ersten Computer der Welt – Fernsehbericht von 1958 – YouTube
  • (2) Die Z3 von Konrad Zuse im Deutschen Museum – YouTube
  • 2017 Der Computerpionier Konrad Zuse als Erfinder und Visionär – YouTube

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