首、無理に動かさないで 【頚髄損傷 中】

首、無理に動かさないで 【頚髄損傷 中】:朝日新聞デジタルより
シリーズ:骨と関節の病気 予防と治療
首、無理に動かさないで 【頚髄損傷 中】
2015年3月20日13時10分

 前回は頚髄(けいずい)損傷の原因についてお伝えしました。今回はその治療と社会復帰についてお話ししたいと思います。

 皆さんが手足を動かさないで倒れている人を見つけた場合には、救急隊が到着して救急車で搬送するまで、倒れている人の首の部分を無理に動かすようなことは絶対にしてはいけません。

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 人命救助のためには心臓マッサージなどの心肺蘇生が最優先されますが、頚髄を損傷している場合、頚椎(けいつい)の不安定性が増して、まひが悪化することがありますので、首の部分をできるだけ動かさないように注意する必要があります。

 頚髄損傷を疑われる患者さんが救急車で病院に搬送された時、私たちは、全身状態の把握やまひの重症度判定を行い、他にけががないか検査します。特に重要なのが、循環器と呼吸器の管理です。

 頚髄損傷では、体を活発に活動させる時に働く神経である交感神経系が遮断されるため、脈がゆっくりとなり、血圧が下がります。また、呼吸筋がまひするため、自分で呼吸することが困難となります。これらの事態に適切な処置を行う必要があります。

 受傷から2週間くらいの急性期には胃・十二指腸潰瘍(かいよう)ができたり、ふくらはぎの血管に血の塊ができたりしやすいので、それらへの対応も必要です。頚椎の脱臼や骨折があり、背骨が不安定な場合、脊髄(せきずい)を圧迫するものがある場合には手術治療を行います。

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 高齢化が進む日本では、頚椎が変形している人がちょっとした刺激によって頚髄を損傷する「非骨傷性(ひこっしょうせい)頚髄損傷」が最近増える傾向にあります。加齢によって頚椎が変形するお年寄りが少なくないからです。

 「非骨傷性頚髄損傷」では脱臼や骨折もないので、背骨を安定化するような手術は基本的には必要ありません。頚椎症や靭帯(じんたい)骨化によって脊髄が圧迫されている患者さんには圧迫を除去する手術を行います。

 頚髄損傷では、手足などがまひする場合が少なくありません。それに伴う肺炎などの呼吸器合併症、まひのある関節が硬くなったり、おしりに床ずれができたりする廃用症候群、腸のまひなど、さまざまな合併症が発症する可能性があります。

 それらを予防するために、ベッドの上でただ安静にするのではなく、早期からリハビリテーションを開始することが重要です。

 リハビリテーションは関節を動かして、関節が硬くなるのを予防するためのものです。少しだけ動く筋肉をもっと動かせるようにして、動かせる筋肉や関節を使って日常生活動作を向上させ、社会復帰や、職場への復帰を促します。

 入院期間はまひの程度によって様々ですが、重症のまひの場合、入院期間は1年に及ぶこともあります。

 重症の頚髄損傷の場合、残念ながら手足のまひが完全に回復する可能性は低くなります。まひを残した場合には、そのままでは社会復帰は難しく、リハビリテーション治療によって、まひによる障害を軽減する方法・知識を習得したうえで社会復帰を果たすことになります。

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 全国脊髄損傷データベースによると、リハビリテーション終了時に約半数の方が家庭復帰できますが、その他の方は病院、社会福祉施設で生活をすることになります。

 職業復帰率は約10%とかなり低くなってしまいますので、社会的なバックアップが必要となります。

 特に青森県では、急性期から症状が落ち着いてくる亜急性期、慢性期と一貫して脊髄損傷の治療、リハビリテーションをできる病院施設がありませんので、今後は医療施設間の連携が重要と考えています。

 (弘前大学大学院医学研究科整形外科学講座助教 熊谷玄太郎)

<アピタル:弘前大学企画・骨と関節の病気 予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/

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