農地復旧の受注、天下りの影 「利権営業活動にOB不可欠」

農地復旧の受注、天下りの影 「営業活動にOB不可欠」:朝日新聞デジタルより
農地復旧の受注、天下りの影 「営業活動にOB不可欠」
市田隆、阿久津篤史、木原貴之、矢島大輔2017年3月19日08時06分
 東日本大震災の津波は、東北から関東にかけて2万ヘクタール超の農地に被害をもたらした。こうした農地の復旧事業には、農林水産省発注のものがある。

 「農水省から天下りを定期的に受け入れる仕組みがいまもある。農水省のOBが『受け入れるかどうか』を会社に打診してくる」

 農地復旧事業の取材を進めていた昨年、農水省発注の事業を全国で請け負っている会社の幹部が口にした。

 幹部は「受け入れを打診するOBとの交渉を担当している」と言った。彼が説明した仕組みはこうだ。

 仲介役のOBは複数いて、キャリア(幹部候補職員)とノンキャリアではルートが違う。受け入れの打診は再就職を望む職員が退職した後にある。年収はキャリアだと通常は900万円までだが、地方局長などだと1千万円以上になる。こうして就職したキャリアの天下りOBが退職すると、次の打診があり、また受け入れる。

 「かつては農水省側からもっと露骨に受け入れ人数の割り当てがあって、断ることができなかった。いまは希望も言えるようになった」と幹部は振り返った。

 事業受注会社の多くが天下りOBを受け入れている。なぜなのか。「農水省工事を受注する営業活動に天下りOBが欠かせないからだ」。幹部の答えは明快だった。別の受け入れ会社関係者もほぼ同様に語る。

 「農地復旧事業でも、うちの天下りOBに聞けば、ライバル社がどの工事を取るのかもわかる」と幹部は明かした。

 農業土木予算は削減が続き、工事受注のうまみは徐々に減っていたが、東日本大震災を契機に東北農政局の発注事業はふたたび増えた。

 仙台市沿岸部で続く事業について、集中的に取材を続けた。すると、各社に天下りしているOBが工事受注のために「活躍」しているとの証言を複数得た。

■「うちがとる。農政局も知っている」

 その事業は「仙台東地区災害復旧事業」と言う。

 東京ドームが約430個入る広さ。仙台平野沿岸部の約2千ヘクタールの土地で、東日本大震災の津波被害を受けた農地を復旧し、区画を大規模化する工事が2011年から続いている。2月中旬に訪れると、点在する現場にゼネコン各社の事務所が設けられ、水田の土を掘り起こす重機に乗った作業員たちの姿が見られた。

 発注者は農林水産省東北農政局。既に周辺地区を含め約386億円(11~15年度)の国費が投じられ、17年度まで工事が続けられる予定だ。15年度末までの競争入札での発注件数は140件以上に上り、農地や排水路の復旧や区画整理事業など多岐にわたる。受注した会社の数はゼネコンや測量・設計会社など50社以上にのぼる。会社側の話を総合すると、このうち20社以上が農水省からの天下りOBを受け入れている。

 ある工事関係者は昨年秋、翌年度発注予定の区画整理事業の受注を目指し、ゼネコンの天下りOBと打ち合わせしていた際に驚くことがあったと打ち明けた。途中、工事の内容で分からない点があった。するとOBが農政局職員に電話。まもなく職員が説明にきたという。

 このOBは15年度発注の区画整理事業で、入札の前に「うちがとることを農政局も知っている」と口にしたという。実際、OBが在籍するゼネコンが100%に近い落札率(予定価格に対する落札額の割合)で事業を受注した。

 別の会社幹部も同じような場面に遭遇したと証言する。15年度発注の2件の工事で、ゼネコン2社の幹部がそれぞれ入札前に自社の落札を明言。そのとおりの結果になり、ともに落札率は90%を超えた。落札後に会った際、「OBを通じて事前に農政局にも話をしていた」と打ち明けられたという。この2社には天下りOBが在籍している。

 東北農政局における「天下り」と「工事受注」の関わり。実は震災前から長い歴史があるのだという。仙台市内で会ったゼネコン東北支店の幹部は「自ら関わった」として口を開いた。

 「かつては『天の声』もあった。複数の会社の希望が重なってもめた際、幹事役の天下りOBが農政局幹部に意向を聞きにいき、その後、『お上の意向』として落札する会社名が各社に伝えられた」

 記者は、複数の東北農政局関係者にも取材を試みたが、震災前後の天下りと工事受注の因果関係を否定した。そうしたなかで今冬、同農政局で幹部を務めた人物が取材に応じた。

 「震災前、農政局から『天の声』が出ていたことは否定しない」と認め、「OBを受け入れた会社だけとは限らないが、それが中心になってしまう、ということはある」と語った。

 震災後については、「OB同士がどこの工事をとるかで相談することも仕方がない状況だった」「それを積極的に了承していたわけではないが、仕方がない状況だった」と繰り返し強調した。確かに震災直後は資材の高騰や人手不足が深刻化して入札不調が続いた。だが、今では福島県の除染事業を終えた会社などの間で参入希望が多くなっているという。

 なにより、天下りOBが工事受注に関わることをどう考えるか。「(再就職のあっせんを)直接はやっていない。だれがやっているか分からない」。記者が繰り返し尋ねても、この話題だけはほとんど語らなかった。(市田隆、阿久津篤史、木原貴之、矢島大輔)

■東北農政局「承知していない」

 朝日新聞の取材に東北農政局は、農水省OBらによる企業側への天下り打診と、震災前に発注事業で「天の声」を出していたことなど企業側との関係について「そのような事実は承知していない」と書面で回答。農水省秘書課も、OBによる打診について「承知していない」としている。

■不正生まれやすい構図

 東北農政局が発注する震災復旧事業の取材を重ねると、事業の受注者側に農水省OBの天下りが続いている実態に突き当たった。

 天下りにおける農水省の現役職員の関与は判明していない。だが、OBが仲介役となるやり方は、組織的な天下りあっせんが問題となった文部科学省の例とも共通している。文科省では天下りと行政執行との関わりが明らかになっていないが、東北農政局の震災復旧事業では、天下りしたOBが受注を目指す事業に絡んで農政局側と連絡を取っていたとの証言もあり、より解明が必要とも言える。

 農水省と受注会社の関係は、震災後の事業特需で突然発生したものではない。今回の取材で官業双方の関係者が、2008年ごろまでは官側が落札業者を指名する「天の声」まで出し、天下りOBが業者間の調整をしていたと証言した。

 過去に発覚した天下り問題では、談合や不適切な発注など天下りを通じた官民の癒着が行政のゆがみにつながっている。06年に幹部ら3人が逮捕された旧防衛施設庁の事件では天下り先の確保が官製談合の目的だった。国土交通省でも天下りOBが関与した談合事件が何度も摘発されている。

 天下りと公共事業の受発注が接近すると不正が生まれやすいことは、歴史が物語っている。(編集委員・市田隆)

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 〈東日本大震災による農業被害〉 地震や津波による被害額は約9千億円にのぼる。国は13カ所の農地、農業用施設で直轄災害復旧事業を実施し、このうち仙台東地区では同時に除塩や区画整理事業も国が一貫して進めている。津波被災農地のうち、営農再開が可能な面積の割合は今年1月時点で83%(転用されたものを除く)。

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