ごみ屋敷なくすには セルフネグレクト、200万人超か

ごみ屋敷なくすには セルフネグレクト、200万人超か:朝日新聞デジタルより
ごみ屋敷なくすには セルフネグレクト、200万人超か
聞き手 編集委員・駒野剛2017年1月20日05時11分

■東邦大学教授 岸恵美子さん

 東京都内で保健師として現場経験を重ね、人々の生活に寄り添って、その人らしい人生を送ってもらう支援のあり方を考え続けてきました。そうした中で、高齢者などで自分自身を放任、放置してしまう「セルフネグレクト」に陥る人たちの事例に多く関わり、研究も進めました。

脱・ごみ屋敷へ支援 東京・足立区の「おせっかい行政」
 社会的に問題になってきた「ごみ屋敷」は、セルフネグレクトのわかりやすい例です。年をとって体力を失ったり認知症になったりして、ごみの処理ができない。たくさんの動物を室内に放し飼いにする。「自分など生きていても仕方がない」と、医療や介護のサービスを受けることもしないばかりか、強く拒否する。

 その結果、著しく不潔な状態で暮らし、周囲に迷惑をかけるとともに、自分の健康を損ねて、最悪の場合、孤立死に至ってしまう。

 昨年11月、岐阜市の民家で70歳代の夫婦と43歳の長男が遺体で見つかりました。病死か衰弱死のようです。高齢者を支援する市地域包括支援センターの担当者が何度か訪ねましたが、「相談ごとは特にない」といわれたそうです。このケースでも、セルフネグレクトに陥っていた可能性があります。

 いったい、どれほどの人たちがこのような状況にあるのか。内閣府の11年の調査で、全国に約1万1千人という推計があります。

 しかし、これは氷山の一角だと思います。セルフネグレクトは日本だけではなく欧米でも問題になっています。大規模調査を実施した米国では、高齢者の9%、年収の低い人や認知症の場合は15%に及ぶという結果でした。日本に当てはめれば、65歳以上の人口が3400万人余ですから、優に200万人以上が該当する計算になります。

 実態が不透明なのは、自己放置の結果、ごみ屋敷に住んで、生命、健康に深刻な打撃を受ける状態に陥ってしまった人たちを救いあげる制度や法律が整っていないためです。

 高齢者の介護や生活の世話をしている家族らが、そうした役割を放棄して生命、健康に被害を与えるような場合には、高齢者虐待防止法の対象になります。市町村などは早期の発見、対応が求められますから、事前に対象となる人たちの把握をしています。

 しかし結果的に生命、健康に打撃を与えるケースでも、自らの体調や衛生の管理をしなかったり、できなかったりするセルフネグレクトの人たちは、こうした防止法の網から漏れています。市町村なども、何らかの対応が必要と考えつつも、実態の把握ができない状態になっているのです。

 横浜市などで、自治体独自の対策条例を作る動きが広がっています。人権に配慮しつつ問題を解決する取り組みもみられていますがまだ一部で、国全体をカバーするには何年もかかってしまう。

 全国一律の支援態勢を組み立てるには、たとえば高齢者虐待防止法の対象にセルフネグレクトも含めて、立ち入り調査や積極的な支援ができるようにすべきです。

 ごみ屋敷などに至る経緯は人それぞれですが、決して特殊な人たちではありません。配偶者や友人を亡くし生きる意欲を失った。気ままなひとり暮らしを謳歌(おうか)し、老後に借金を抱えるが、プライドもあって引きこもる。体が衰えても周囲に助けを求められない。認知症が進んで分別回収のごみが捨てられなくなって家にため込む――。誰もが老いれば、似たような状況に陥る可能性があります。

 超高齢化が本格化する前に、セルフネグレクトの全体像を把握できるよう法を整備し、支援態勢を整えなくてはなりません。(聞き手 編集委員・駒野剛)

     ◇

 〈きし・えみこ〉 1960年生まれ。東京都内で保健師を16年間務め、2015年から現職。著書に「セルフ・ネグレクトの人への支援」など。

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