そんなもん-「娘なんて産まなければ」母の日記に衝撃 秋川リサさん

「娘なんて産まなければ」母の日記に衝撃 秋川リサさん:朝日新聞デジタルより
「娘なんて産まなければ」母の日記に衝撃 秋川リサさん
編集委員・清川卓史2016年5月10日18時55分
 俳優の秋川リサさん(63)はある日、介護していた認知症の母の日記の言葉を目にして、衝撃を受けました。「娘なんて産まなければよかった」。私はこんなにも母に憎まれていたのか――。

 同居していた母(88)が認知症と診断されたのは7年前のこと。最初は「財布がない」「通帳がない」と家捜しが始まった。症状が進むと、深夜に外出して、何度も警察に保護された。秋川さんはいつでも捜しに出られるよう、携帯電話や財布を枕元に置き、普段着のまま眠った。

 2010年のある日。着替えやオムツの準備をするため、母の部屋のウォークインクローゼットに入った。段ボール箱が重なった奥にあるタンスの中に、数冊の大学ノートがあった。表紙には「昭和60~平成1」などと日付が書かれていた。家計簿かと思い、何げなく開いた。

 「目に飛び込んできたのは、私やかつての私の夫への不平不満、罵詈雑言(ばりぞうごん)でした。『娘なんて産まなきゃよかった。一人で生きている方がよっぽどよかった』。私にとって初めて聞く言葉ではない。小さい頃から言われ続けてきた言葉でした」

 米軍人だった秋川さんの父が日本を離れた後、母は苦労して秋川さんを育てた。モデルの仕事を始めてからは秋川さんが家計を支え、2人で海外も旅行した。母もうれしそうだった。多少は感謝の思いも持ってくれていると思っていたが、日記には「生活の面倒を見ているからって、偉そうに」と書かれていた。

 ログイン前の続き「目にした瞬間は、傷つくっていうよりも喪失感。『やっちゃったね、おばあちゃん』という感じ。私の人生なんだったんだろうと本当に打ちのめされたのは、何日か過ぎてからです。夫婦は嫌なら別れられる。血のつながった親子は別れることはできないのです」

 それでも介護する日々は続く。日記について母には何も言わなかった。感情が爆発したら自分が壊れると思った。デイサービスから帰宅した母をにこやかに迎えられない。仕事から帰って母の排泄(はいせつ)物で汚れた廊下を掃除するときもいらだちが抑えられない。一方で、母を心底憎むことはできなかった。そんな葛藤は、11年3月に母が高齢者施設に入居するまで続いた。

 「周りからは『親子なんだから施設に入れずに家で面倒をみなさい』って言われる。でも親子だからこそうまくいかないということがある。それをわかってほしい」

 日記は全て焼き捨てようと思ったが、いまも1冊だけ手元に保管してある。

■母から教わったことは

 秋川さんはいま、芸能界で仕事をするかたわら、母がいる施設とは別の高齢者施設で非常勤職員として働く。

 老いて衰えていく人間に対する優しさが持てない。それは自分の母だからなのか、もともと自分の心のうちに優しさが少ないのか。それを知りたかった。

 「私、そんなに悪い人じゃないなって思いました。施設の介護職員さん、看護師さんもみんな『仕事だからできる』っておっしゃる。介護のプロでも『自分の母親は絶対面倒をみたくない』っていう方もおられました」

 心身ともにぎりぎりだった在宅介護を切り抜けられたのは、長女(28)の支えが大きかった。戦友のように共に母を介護し、人生を語り、時にはバーで息抜きの1杯にもつきあってくれた。この先の長女や長男(29)との関係を考え、できる限り親子で話し合うようにしている。

 もしいつか自分が認知症になったら――。長女は「私が全部対応できるから大丈夫」と言ってくれる。そんな長女から「悪いけど明日から施設に行ってもらわなきゃならない、という状況になったら、娘に裏切られたって思わない?」と問われたことがある。

 「その読みもなかなか深いというか、そうかも知れない。親子なら何でも許されるわけではないということを私は母から教わった気がします。親子だからこそ気を使わねばいけないことがある。そう思って努力しています」

 「親の仕事は子育てをして社会人にしたら終わりではなく、どう死に別れるかまで、ちゃんと見せなきゃいけないんじゃないか、と。子どもたちに『ママの子で悪くなかったね』と思ってもらいたいと考えるようになりました」(編集委員・清川卓史)

     ◇

 あきかわ・りさ 1952年生まれ。高校時代からモデルの仕事を始め、俳優・タレントとして活躍。ビーズ刺繡(ししゅう)作家の顔も持つ。著書に「母の日記」(NOVA出版)。

■介護の記憶、投稿を募集

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