論文「人格適応面からみた依存性の研究 : 自己像との関連において」

本文をテキストに起こした。キーワード:統合的依存性、統合された依存性
CiNii 論文 –  425 人格適応面からみた依存性の研究 : 自己像との関連において(人格3,人格)より
Japanese association of educational psychology
人格 425

人格適応面からみた依存性の研究-自己像との関連において-

関知恵子

(京都大学 教育学部)

<問題・目的>
 従来、依存と自立とは、相対立する概念であり、依存→自立という成長過程の中で、依存は未熟の象徴とされてきた。従って、適応との関連においても、その否定的側面のみが、強調されがちであった。しかし、最近では、依存性は、発達に伴って、消失するのではなく、より成熟した形に変容する、という見方がされ始めている。(江口、1966など)即ち、成熟し、適応的な人間とは、孤立した存在ではなく、時に応じて、他者と相互依存的な関係をもつことができ、且つ、そこから得た安定感をもとに、自立的な行動のとれる人間であると考えられる。一方、臨床的には、依存傾向の欠如・依存の拒否の含む問題性が、経験的に知られている。このような点に着目すると、成熟した形の依存性は、適応上、肯定的な意味をもち、その欠如は、逆に否定的な意味を有すると考えられる。そこで本研究では、以上の理論的仮説を実証し、依存性のあり方と適応との関連、適応上、肯定的な意味をもつ依存性のあり方、といった点について検討する事を目的とした。
 本研究では、成熟した人格に備わっているべき依存性として、”統合された依存性”の概念を新たに導入した。”統合された”の下位概念としては、人格に内在化している・その存在を認めている・その存在に不安を感じない・自立性と相補的に存在している、が挙げられる。そして、依存欲求・統合された依存性・依存の拒否(背後に依存不安があると考えられる。)、の3変数を単独に、或いは、組合わせて(プロフィール化)用いることによって、依存性を表した。又、適応の指標としては、自己像の肯定度を用い、肯定的な自己像は、良好な適応を示す、と操作的に定義した。
実証仮設:
(1)a)統合された依存性の高い人は、低い人よりも、自己像の肯定度(以後、P.S.と記す)が高い。
   b)依存の拒否の高い人は、低い人よりも、P.S.が低い。
   c)依存欲求の高低は、他の2変数との関係においてのみ、P.S.と関連する。
   d)依存性プロフィール(表4参照)のうち、P.S.の最も高いのは、ProfileⅢ、最も低いのは、ProfileⅥである。
(2)依存性のあり方、そのP.S.との関係には、性差が見られる。

<方法>
1.被験者:大学生200名(男女、各100名)。
2.測定用具:(1)依存性の自己評定質問紙-依存欲求(以後、Dep.と記す)、統合された依存性(同、I.D.)、依存の拒否(同、R.D.)の3尺度から成る。各尺度13項目、計39項目。5段階評定。(予備調査の上、作製)
(2)自己像尺度-村瀬(1966)による自己像尺度から、30項目選定。各項目は、対立語からなり、7段階評定。
3.手続き:集団法で、(1)→(2)の順で施行した。

<結果の整理>
 (1)-各項目に、5点~1点の得点を与え、尺度毎に個人得点の算出。(2)-肯定語に近い方から、3点~-3点を与え、個人得点の算出。プロフィールを用いた結果については、(1)の得点に関して、被験者を8群に群分け(各尺度の中位約20%を除いた上、各尺度の上位・下位、いずれに属するかで、2の3乗=8群に分類)。

<結果>

表1.依存性各尺度の得点の平均・標準偏差、及び男女差の検定

表1.依存性各尺度の得点の平均・標準偏差、及び男女差の検定

表2.依存性各尺度の得点と、P.S.との相関

表2.依存性各尺度の得点と、P.S.との相関

表3.各依存性プロフィール該当者の分布、及び、P.S.の平均・標準偏差

表3.各依存性プロフィール該当者の分布、及び、P.S.の平均・標準偏差

 1)依存性各尺度の得点:表1に示す通り、いずれの尺度も、男女間に有意な差(p<0.001)が見られた。
 2)依存性各尺度の得点とP.S.との相関:表2に示す通り、Dep.-P.S.間には有意な相関は見られず、I.D.-P.S.間は、男女共、有意な正の相関、R.D.-P.S.間は、全体・女子で、有意な負の相関が見られた。
 3)プロフィールによる分析。-表3参照-前述の方法(<結果の整理>参照)により、群分けを行なった結果、対象となったのは、男子46名、女子52名であった。
 各プロフィールについては、表4参照。

表4.各依存性プロフィールの特徴、および、男女の分布

表4.各依存性プロフィールの特徴、および、男女の分布

 プロフィールでの分布:男子では、ProfileⅡが、特に多く、女子では、ProfileⅦ、次いで、ProfileⅡが多かった。
 プロフィール毎のP.S.:視察により比較すると、男女共に、ProfileⅢが最も高く、ProfileⅣが、それにほぼ等しい、高い値を示した。女子では、ProfileⅦも、高い値を示した。(男子では、低い値)。ProfileⅥは、男子では、最低の、しかも、負の値を示したが、女子では、ProfileⅧの方が、より低い値を示した。
 統計的方法による、8群間のP.S.の多重比較は、個人の得点と順位得点化した上で、Nonparametric法・Hテストによって、検定が、なされた。その結果、男子(H=13.61, df=7, .05<p</10)、女子(H=12.38, df=7, .05<p<.10)となり、5%水準で帰無仮説を棄却することは、できなかった。

<考察>
 本研究の結果は、総じて、理論的仮説・実証仮説を支持するものであった。実証仮説のうち、(1)b)は、男子において、有意な結果が得られず、(1)d)は、男子で有意な傾向が見られたが、女子では、部分的支持が示唆されるに留まった。が、中心的な仮説である、統合された依存性と適応との関係については、男女共に、仮説が支持され、統合された依存性が、適応上、肯定的な意味をもつことが、示されたと言えよう。
 依存性各尺度の得点、又、依存の拒否とP.S.との関係などに、性差が見られたが、そこには、社会的要因・依存に対する価値観の違いの影響が考えられる。しかし、男子にとって社会的に是とされる、”依存の拒否”の裏にある依存不安を考える時、単純な解釈は、避けるべきだと思われる。
 各依存性プロフィールの特徴を、考察をまじえて、記したのが、表4である。この特徴を踏まえて検討すると、男女の分布は、了解され易く、又、青年期後記、という、被験者の発達段階が、反映されている、と考えられる。プロフィール毎のP.S.の値についても、同様であり、例えば、ProfileⅣが高いP.S.を示した理由として、この発達段階としては、ProfileⅣは、かなり成熟した依存性の型であることが、挙げられる。適応の問題を考える時、発達段階、及び、性差が関係してくるのは、当然であると言えよう。
 最後に、ProfileⅥの含む問題性は、男子において、負のP.S.の値が示されたことからも、明らかであり、臨床上、最も問題にすべき型だと考えられる。

<結論>
 以上より、成熟した形の依存性-統合された依存性-は、適応上、肯定的な意味をもち、寧ろ、不可欠であることが示された。依存性のあり方を、3変数・プロフィールを用いて捉える試みも、適応との関連を検討するにあたり、有効であったと考えられる。
 しかし、概念の明確化、といった理論上の問題点、又、測定法などの方法論についても、更なる検討が必要であり、今後の課題と言えよう。


関連記事Similar Posts:

カテゴリー: 雑記 タグ: , パーマリンク