遺伝子で脳の進化を探る-形の進化とゲノムの変化―ナメクジウオが教えてくれること

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これかな?
脊椎動物の脳の進化プロセス~ヤツメウナギ分子発生学からのヒント(PDF)より


Interview:形の進化とゲノムの変化―ナメクジウオが教えてくれること-BRH – JT生命誌研究館より 

遺伝子で脳の進化を探る

――― ホランドさんは,ホメオボックス遺伝子を使って,脳の進化についても研究しておられますね。
ホランド ―― ナメクジウオは,はっきりとした脳をもっていません。その代わり,体の前後に脊椎動物の脊髄に相当する神経管が走っていて,その先端部で少しだけふくらんだ部分が脳胞と呼ばれています(図)。19世紀に盛んに行なわれた研究で,脊椎動物の脳とナメクジウオの神経組織との関係について,いくつかの説が提唱されていました。そのひとつは,脊椎動物の脳はナメクジウオの脳胞に由来するという考え方で,もうひとつは,ナメクジウオは脳に相当する組織はもたず,脊椎動物の脳は進化の過程で新しく生まれた,とする考え方です。

――― 形を比較するだけでは,どちらが正しいかは言えないように思えますが。
ホランド ―― それでホメオボックス遺伝子を調べることにしたのです。まず,ナメクジウオのホメオボックス遺伝子のうち,AmphiHox-3という遺伝子の発現を調べてみると,発現領域の前端は脳胞よりもずっと後ろにありました。一方,脊椎動物でAmphiHox-3遺伝子に対応するHox-3という遺伝子の発現領域の前端は後脳という脳の一部の中にあるのです。ホメオボックス遺伝子は,それが発現している領域とそうでない領域に違いを作るという働きがあります。そう考えると,脊椎動物の脳がナメクジウオの脳胞とさらにその後ろの神経管の一部というかなり広い領域に由来するのではないか,という,これまでとは違った,新しい仮説を考えることができるのです。現在では,AmphiHox-1という遺伝子でも同じような結論が出ており,ナメクジウオの脳胞に脊椎動物の間脳にあたる構造があるようだという結果も得られています。

ナメクジウオで脳の進化を探る
ホメオボックス遺伝子の発現の比較から,脊椎動物の脳(図ではマウスの黄色く塗られた部分)は,ナメクジウオの脳胞およびその後ろの神経管の一部(黄色の部分)に由来するのではないかという,新しい仮説が生まれた。


ナメクジウオや脳の進化関連

ナメクジウオ 生物学者はこんなことを考えている
ナメクジウオのゲノムと脊索動物の核型の進化(PDF) 2008年
ナメクジウオゲノム解読の成功により脊椎動物の起源が明らかに — 京都大学 2008年6月12日

ギボシムシに見られる神経管形成の徴候-ヒトの脳の進化を探る糸口を発見-(PDF) 2013年11月1日
ヌタウナギが教えてくれる 脊椎動物の進化 著者インタビュー Nature ダイジェスト Nature Publishing Group 2013年5月

世界を驚かせたヌタウナギの発生
–– 発生過程の研究が必要に?

問題の1つは下垂体(腺性下垂体)です。ヤツメウナギではこれは他の脊椎動物同様、外胚葉に由来します。ところが、ヌタウナギの下垂体が内胚葉に由来するという考えがあり、それがヌタウナギを脊椎動物以前の系統と見なす根拠の1つとなっていました。ですから、ぜひとも発生過程を調べる必要があったのです。

ところが、ヌタウナギの卵を実験室で発生させることは、まだ誰も成功していなかった。多くの人々が挑戦していましたが、みな失敗していたのです。19世紀の終わりに少しまとまった報告が一度あっただけでした。

–– 難問が立ちはだかっていましたね。

その難問に挑戦したのが、以前私の研究室にいた太田欽也研究員です。「運よく2〜3匹でも生ませることができれば、世界が驚くだろうが、失敗する公算のほうが大きい」という私の言葉に、「やってみます」と言ってくれて……。私には、研究者のカンっていうのかな、片手間に「あわよくば」と研究するのではなく、100%それに集中すればうまくいくのではと、そんな予感めいたものがあったのです。

–– 本当に世界を驚かせましたね。

太田君は、日本近海で獲れる種類のヌタウナギをラボに運んできて、できる限り生息環境に似せた水槽で飼育し、産卵させました。ただし、この段階までなら多くの研究者が成功している。問題は卵を発生させることです。とりあえず気長に観察してみようと、待つこと5か月。

「先生、卵の中に何かいます」と言ったときの彼の声が震えていたことを今でも覚えています。多くの動物学者が100年以上追い求めていた胚がついに得られたのですからね1。パリ自然史博物館の古生物学者、フィリップ・ジャンヴィエー博士にメールで伝えたところ、10分後には世界中の研究者に知れ渡っていました。「ある意味、シーラカンスの発見よりも重要」という評価がうれしかった。


脊椎動物 見えてきた進化の謎 ヤツメウナギのゲノム解読きっかけに 地域 読売新聞(YOMIURI ONLINE) 2013年4月1日
脊椎動物 見えてきた進化の謎
shinka20130401
2013年04月01日ヤツメウナギのゲノム解読きっかけに 脊椎動物の体は、昆虫など他の動物と比べて総じて大きく、複雑で、寿命も長いのが特徴だ。進化の歴史をさかのぼると、ルーツは5億4200万~4億8800万年前のカンブリア紀に現れた動物にたどり着く。ヤツメウナギ、ヌタウナギという無顎(むがく)類だ。現在も生息する無顎類の遺伝子研究が近年進むにつれて、その特異な性質とともに、脊椎動物の進化の秘密も少しずつわかってきた。(今津博文)

■ウナギのようで… 

 無顎類は一見、ウナギのようだが、硬骨魚類のウナギと違ってあごがなく、脊椎動物でありながら背骨の構造がはっきりしない。動物の進化系統で分類すると、軟骨魚類の一歩手前に当たる。魚類に入れるかどうかでも説が分かれる。多くは古生代に絶滅し、現存するのは円口類と呼ばれるヤツメウナギ類とヌタウナギ類だけ。どちらも丸い吸盤状の口を持ち、他の魚類やその死骸に吸い付くことなどで養分を得ている。

 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)などの国際研究グループは今年2月、ヤツメウナギの一種「ウミヤツメ」のゲノム(全遺伝情報)の解読に成功したと発表した。独特のゲノム構造などから解読は困難を極め、約7年かかったものの、得られた解読結果からは、初期の脊椎動物が形づくられた道筋が浮かび上がってきた。

 注目すべき遺伝子の特徴の一つに、脊椎動物の主要な神経線維(神経細胞の突起)を覆う「ミエリン鞘(しょう)」に関するものがある。

 神経線維は全身に張り巡らされ、人の脳では1000億個を超える神経細胞が複雑な回路を作る。ミエリン鞘は言わば「絶縁性のカバー」で、これに覆われている神経線維は、そうでない場合よりも情報伝達のスピードが10倍ほど速い。この「高速回線」は、脊椎動物の大きな体や複雑な脳の構築には欠かせない。

 ミエリン鞘は、脊椎動物以外の動物にはなく、無顎類にも、これまでの解剖学的研究からは、存在しないことが確認されている。だが今回、ヤツメウナギはミエリン鞘の形成に必要な複数の遺伝子を持っていることがわかった。つまり「回線の高速化」は、無顎類が出現した約5億年前に、少なくとも「設計図」はできていたことになる。

 解読に携わった工樂樹洋(くらくしげひろ)・理研ユニットリーダーは「ミエリン鞘がどのようにしてできたのかを探る手がかりとして、非常に興味深い」と話す。

■2つの機能持つ

 私たちの体を病気から守る免疫には、細胞が備える多彩なセンサーによって病原体の感染に素早く反応する「自然免疫」と、1度感染した病原体の特徴を記憶して攻撃するよう働く抗体を作り、2度目の感染を防ぐ「獲得免疫」の2種類がある。

 人からハエまでの幅広い動物が持つ自然免疫センサーとしては、大阪大の審良(あきら)静男教授らが発見したたんぱく質「TLR(トルライク受容体)」が有名だ。一方、獲得免疫は、高等な脊椎動物だけが備えているとされてきた。

 だが、北海道大の笠原正典教授らが2010年にヤツメウナギで発見した「VLR(可変性リンパ球受容体)」は、TLRと似た構造をした自然免疫センサーという特徴だけでなく、1度感染した病原体の特徴を記憶する仕組みも備えていることが判明した。

 笠原教授は「VLRは、自然免疫と獲得免疫の機能を併せ持つ独特の免疫システムと言える。脊椎動物は進化の過程で、より高度な免疫の仕組みを発達させて病原体と戦い、寿命を延ばしてきたのだろう」と説明する。

 無顎類の研究を進める理研の倉谷滋グループディレクターは「脊椎動物のすごさは、鳥が空を飛び、マグロは時速160キロ・メートルで泳ぐことができるといった能力の多様性だ。どうしてこれほど様々な能力を持つ動物へと進化したのかを考える上で、無顎類のゲノムは大きなヒントを与えてくれる」と話している。

◆「全ゲノム倍増」現象 カンブリア紀に2回

 カンブリア紀には、三葉虫を始めとする節足動物や海綿、クラゲなど多種多様な動物種が海中で進化を遂げた。「カンブリア爆発」と称され、無顎類もこの時期に出現したとされる。

 この時期、脊椎動物の祖先では、全ゲノムが倍増する「ゲノム重複」という現象が2回起きたと考えられている。ゲノム重複によって遺伝子の数が飛躍的に増え、様々な機能を持つ遺伝子が次々と作り出されたことで、より複雑な体への進化を促したというのだ。

 ゲノム重複は従来、無顎類が出現する前後に相次いで起きたとする説が主流だった。しかし、ヤツメウナギのゲノム解読により、2回とも無顎類の出現前に起きていた可能性が高いことがわかった。「原始的な脊椎動物」と呼ばれる無顎類だが、今後は進化史における位置づけが変わるかもしれない。

2013年04月01日 Copyright © The Yomiuri Shimbun


Kuratani-Nature-13_1_10-Fig_2ヌタウナギの頭部の発生と脊椎動物の進化 ライフサイエンス 新着論文レビュー 2013年1月10日
後脳の進化に新たな知見 理研CDB – 科学ニュース 2004年1月30日 
後脳は脊索動物の神経管の進化過程を語りうる、きわめて興味深い脳の一部である。倉谷滋チームリーダー(形態進化研究チーム)らは、脊椎動物の進化の初期に枝分かれし、今でも生き残っている無顎類の一種、ヤツメウナギを用いた研究で、後脳の形成と神経細胞の分化を司るメカニズムについて興味深い現象を発見した。この研究成果は科学誌Developmentに発表される。

脊椎動物の後脳はロンボメアと呼ばれる分節構造からなり、そのそれぞれに特殊な神経細胞が分化する。しかし、より原始的な脊索動物であるナメクジウオは後脳に相当するものは持つが、分節的なパターンはない。ヤツメウナギは、系統的にはナメクジウオと顎をもつ顎口類の間から派生してきたと考えられる動物であり、後脳の進化的変化を解明する有用なモデルとなる。


KAKEN – ヤツメウナギ胚の網羅的遺伝子検索と顎の進化発生学(13202045) – 2001年度研究実績報告書
「ナメクジウオの生物学」 JRD2001年12月号(Vol. 47, No. 6)掲載
脊椎動物の脳の進化 – るいネット 2012年8月4日
脳の進化と活用、その可能性を探る~脳の進化は何で測るか~ – 生物史から、自然の摂理を読み解く 2010年10月29日


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